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私は高知県にある小さな村に住んでいます。この村では昔から村人に恐れられているある言い伝えがあります。
『白霞泉(びゃっかせん)』と言われる小さな泉にまつわる迷信です。
白霞泉は村の外れにある林道の入り口からしばらく行った所にあります。木々に覆われ常に霞がかっていることからそう名付けられたそうです。白霞泉は神秘的な反面この世とは思えない雰囲気を醸し出しているため、地元の人でも滅多に近付くことはありません。
村では8月の第2週の一週間、『白霞水神際(びゃっかすいじんさい)』といわれる水神様を祭る習慣があります。この期間中に白霞泉の水位が泉の片隅に建てられた小さなお社に届いてしまうと、必ず誰かが水の事故で亡くなったり、神隠しにあうというのが白霞泉の迷信です。
また、この迷信のとおりいなくなった人たちは、生贄などではなく水神様の使いとしてあの世に逝くのだとも言われています。そして、次の誰かを迎えに来る際は、最後にいなくなった人が水神様の使いとして、連れて逝かれるその人の所に現れるのだということも、この迷信の一部として知られています。
この迷信が村人に強く信じられている理由は、100年近く前から記録が残され、ほぼ10年に一度、迷信の条件に合致する年があり、その年は必ず誰かがいなくなっているそうなのです。ただ、最近では気象条件の変化によるせいか、最後にこの条件に合致した年は、既に二十年以上も前の事になります。私はまだ幼かったため当時の記憶はありません。これだけ長い間条件に合致する年がないと、村でも水神際の期間中の緊張感は大分薄れてきているように思います。
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