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知らず深いため息をついていた俺は、傍にあった椅子に腰掛けると両手で顔を覆った。
何だ、これは。
俺の体に何が起こっているんだ?
ほんの数分で柿崎さんは休憩室へ戻ってくると、俺の目の前にラップで包まれた何かを差し出した。
「これ、私が作った塩むすび。ちょっとでもいいから、口に入れなさい。それで今日は帰ったほうがいいわ。作業場で倒れたりしたら大変よ。機械も多いからどこで怪我するか分からないし、他の人にも迷惑になちゃうから」
どうせきっと食べられない。
そう思いながらも、俺はありがたくその塩むすびを受け取った。
ラップをはがすと、優しい米の匂いが鼻をついた。
ゴクリと喉が鳴り、腹が音を立てた。
恐る恐る米を口に含む。
途端に口中に唾液が湧き、甘い米の味と塩気が全身を満たした。
気が付くと、手にした塩むすびを貪り食っていた。
あれだけ食べ物を受け付けなかった胃に、固形物が久々に落ち込んでいく感覚。
「あ……れ?」
涙が……訳も分からず俺は涙を流していた。
涙で顔をグチャグチャにしながら、残りの塩むすびを口に運ぶ。
指について米粒の一つ一つまでも舐め取り、ようやく一息ついた。
「良かった、食べられたみたいね。落ち着いた?」
作業着の袖で涙を拭い、俺は柿崎さんに礼を言った。
「ありがとうございます。落ち着きました。久しぶりにちゃんと『食べた』感じです」
少しだけ笑う事も出来た。
「じゃ、私からも伝えておくけど、ちゃんと事情を説明して帰りなさいね。まだまだ顔色良くないから」
柿崎さんは俺に手を振ると、休憩室を出て行った。
椅子に座って何度か深呼吸をする。
今まで、どうして気が付かなかったんだろう、随分と体が重い。
思い切り息を吸い込むと、俺は壁に手をついて体を起こし責任者に事情を説明しに行った。
柿崎さんから話を聞いていたであろう責任者は、俺の顔色を見るなり話の半分も聞かずに帰るように促した。
「すみません、今日は帰らせて頂きます」
「ゆっくり休むんだぞ、いいな?」
心配そうに声を掛けてくれる責任者に頭を下げて、俺はロッカーに戻ると再び着替える。
脱いだ作業着をハンガーにかけロッカーに戻そうとした時、俺は作業着の内側に数十本の髪の毛が絡みついているのを見た。
あり得ない。
食品に髪の毛などの異物混入があっては大変だから、干す時に何度も確認した。
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