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洗濯物に髪の毛が絡むようになってからは、それこそ徹底的に確認するようにしている。
着替える前にホコリやゴミを取るためにコロコロもかけている。
昨日バイトから帰る時には、こんなモノはついていなかった。
全身の毛穴が開いたような気がした。
作業着をロッカーの中に放り込み、震える手で鍵をかけてからバイト先を飛び出した。
何が……一体、何が……。
自転車をこぎながら、俺の頭の中でこのフレーズだけがグルグルと回っていた。
いくら考えても答えが見つかるはずもなく、やがて自宅へたどり着いた。
ふらつきながら鍵を開け、部屋の中に入った瞬間。
俺の意識を刺激したのは、あの洗濯機だった。
コイツがうちに来てから、一連の出来事が始まったんだ。
なんであんなに音がしたり、髪の毛が絡みついたりしているのに、使い続けているんだろう。
どうして「仕方がない」と思って使い続けているんだろう。
玄関で突っ立ったまま洗濯機を見つめていると、俺の目の前でソレが揺れ始めた。
初めは分からないくらいに細かく、やがてガタガタと音を立てて。
俺は呼ばれるように靴を履いたまま部屋にあがると、揺れている洗濯機の蓋を開けた。
覗きこんだ先には、銀色に光る洗濯槽。
そこにしゃがみこんだ、白髪の老婆。
小さな体を折り曲げ、洗濯槽に膝を抱えてしゃがんでいる老婆が、膜のかかった濁った目で無表情に俺を見上げている。
自分の見ているモノが理解できず、その老婆を視線を合わせる事数秒。
動きを止めていた脳細胞が、やっと信号を送り始める。
「う……あ……」
悲鳴をあげたいのに、呼吸が変なふうになってしまい上手く言葉にならない。
早くここから逃げ出さなくてはいけないと分かっているのに、体はピクリとも動かせない。
その間も、白髪の老婆と俺の視線はカチ合ったまま。
何十分も経ったような気がしたが、実際には数十秒だったのではないだろうか。
洗濯機がガタンッ!と大きく揺れた。
その音を合図にしたように、俺の足はたたらを踏み背後にあったトイレのドアにぶつかって音を立てる。
ズルズルと背中をドアに預けたまま廊下に座り込む。
視線は洗濯機から外す事が出来ない。
ガタ……ガタタ……。
目の前で洗濯機は揺れている。
そして……開けたままの洗濯機の口に……ペタリ、と筋張った指がかかるのが見えた。
「お、お、おおおおぉぉぉあああぁぁぁぁぁ!!!!!」
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