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銀矢はありったけの思いで日乃目に問う。
しかし、日乃目の表情は変わらない。なにかを知っていて話すつもりはないのだと銀矢は納得せざるを得なかった。
「貴方は知らなくていい。知らなくていいことよ!」
日乃目の怒鳴る声に続いて、彼女が体制を崩した。滑落したのだ。雪が多すぎて崖の端に来たことに気が付かなかったのだろう。
銀矢は確かに足を踏み出していた。助けようと手を伸ばしていた。しかし日乃目は真冬の川へと転落した。
「日乃目!」
泣き叫ぶような声がした。
春日小雪が吹雪の中に立っていた。まるで雪に突き刺さったような出で立ちだ。擦りきれた小袖は風に靡いていた。茶色い瞳がじっと銀矢を見据えていた。
「よくも……っ!」
小雪の絞り出した声に銀矢は我に変える。小雪が抜いた刀が側にある。
避けきれないと踏んだ銀矢を助けたのは信濃であった。
信濃の刀に刀を弾かれた小雪が雪の中で動きを止めている。
小雪の睨み付けるような眼差しに銀矢は言った。
「何を勘違いしてるんだ。事故だ」
自分でも軽率だったと思ったが後の祭りであった。
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