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しっとりとした雨が今昔森を叩いている。
日元の大陸に降り注ぐ命の源は、今昔森のの湖に吸い込まれて消えた。
「降られてしまったね」
湖の畔に奉られた神様が塒にしている神社から男が出てくる。
「あら、本当」
男の後ろからあどけない表情をした娘が顔を出す。
娘が着ている薄紅色の着物が僅かに乱れていた。
「急いで着る必要はないと言ったのに」
「こうして逢瀬できるのは今日までと言ったはずです。白夜様」
娘は黒い瞳を男に向けた。
「良く、真田のところへ嫁ぐつもりになったものだな。米寿」
「私には白夜様の子がおります。真田は知りません」
「俺の子か。できるなら、春日の姓を名乗らせてやりたかった」
「良いのです。いずれ、迎えに着てくださるのでしょう。日元と共に」
娘は顔を綻ばせる。
「必ず迎えに行こう。俺の子と妻である君を」
「頼もしゅうございます。白夜様。信じております」
男は娘を抱き締める。
娘は男の胸に頬を寄せた。
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