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さすがに見間違いということはないだろうから、印刷の不具合だろうと判断して周囲にそれとなく話を振ってたが、写真の人物像が黒く見えているのは俺だけで、周囲にはごく普通の写真に見えているらしい。
それを告げられた時、俺はかつてと同じ判断で、総てを『気のせい・見間違い』として処理した。
犯罪者になった友人の、昔見せてもらったアルバムにおかしな影が映り込んでいた。それが歳を重ねるごとに大きく育ち、俺が知らぬ間に、本人を飲み込む程に成長した。
訴えたところで信じてもらえない話だ。だったら最初からなかったことにするに限る。
理解者探しに見切りをつけ、そう考えるようになってからは、他で似たような写真を目にしても、全力で知らぬ顔をするスキルを磨いた。
たまたま俺には何かが見えた。だけど誰も信じない。だったらなかったことにしよう。それでどんなことが起きても…知ったことじゃない。
* * *
あの日からさらに数年。
彼女と呼べる存在もいたことはあるが、仕事仕事で、三十路に突入しても結婚のけの字も出さない俺に業を煮やし、母親が見合いの話を勧めてきた。
そんな気はないと断っても、せめて写真だけでもと電話がしつこいので、話し合いの結果、久方ぶりに実家に戻ることとなった。
帰宅するなり母親が、幾つもの見合い写真を持ち出してくる。一応そのために帰ったので、見ない訳にもいかないと、俺はそれらに目を通した。そして思いきり顔をひきつらせた。
見合い写真の女性は皆、あの友人程完全ではないが、映る姿の八割以上が黒い影に飲み込まれていたのだ。
この黒い影が何を示すものなのかはいまだに判らないが、これが写真に現れている人物は危険だということは判る。とはいえ、理由を話したところで母親に通じるとも思えない。
さあ、どうやってこれら総てを断ろうか。
育つ黒影…完
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