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育つ黒影
中学の時、数人で友人の家に集まった。その折に、話の流れでアルバムを見せてもらうことになった。
当たり前だが総てに友人が映っている。それと一緒に、奇妙なものが映り込んでいることに気がついた。
どの写真にも黒い影のようなものがいる。大きさはまちまちだが、見ようによっては人影のようだ。
しかもよく見ると、写真の影は大きさがまちまちなのではなく、友人が年を取るごとに大きくなっているのだ。
「なぁ、これ何?」
一枚二枚ならいざ知らず、全部の写真に黒い何かが映っているなんて不気味過ぎる。でも友人は平然としているから、不可思議なりに理由のある現象なのかもしれない。だから思い切って聞いてみたのだが、返答は一言。
「『これ』って何のことだ?」
周りにも同じことを聞いてみたが、返答は皆一緒。つまり、影が見えているのは俺だけらしい。
その事実に気づいた瞬間、俺は自分の発言を見間違いからのものとして口をつぐんだ。
* * *
あれから月日は流れ、進学や就職の都合で地元を離れてもう十年。
実家に帰ることもほとんどなく、ましてや、地元の友人に会うことなどなかった俺の耳に、とんでもないニュースが飛び込んできた。
地元の田舎町で通り魔事件が起き、何人もの人が亡くなったというのだ。
それだけでも充分ショックだったが、さらに俺を驚かせたのは犯人だった。
白昼堂々、駅前の大通りで凶行に及んだのは、中学まで仲が良かったあの友人だったのだ。
あまりのことに、実家や地元の旧友に聞きまくると、通り魔事件を起こしたのは、同姓同名のどこかの誰かではなく、やはり友人本人で、理由は定かではないが、確実だった筈の大学受験に失敗した後引きこもり、世間に不満を持っていたようだから、それが爆発したのではということだった。
俺の記憶の中では、どちらかというとおとなしく、温厚で気のいい奴だった。だから、どうしてあいつがこんなことを…という考えが拭えなかった。
でも数日後、凶行の理由に納得するというか…ともかく、腑に落ちることがあった。
捕まった友人はもう未成年ではないので、実名と顔写真がTVニュースや新聞で報じられた。その際に使われた写真を見て俺は愕然とした。
そこに映った友人の姿は真っ黒だった。いや、正確には、友人の姿の上に黒い影が重ねられているように見えた。
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