暁闇

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部屋は高台にでもあるのか、水に浸る気配はない。暗闇の中、二つの花は、一枚、また一枚と、花びらを散らす。散る度に、あたりに清んだ音が響く。ただの音のようにも、言葉のようにも聞こえる。私はそれを心地よくきいていたが、それはやがてとだえ、あたりは静寂につつまれた。私にきかせるために音をならしてくれたのかはわからなかった。私の存在を認識できるものは、かつて現れたことがない。期待しても、裏切られるだけだとは分かっている。しかし、しかしもしも、そのような存在が現れたなら、その時は、私の世界にも、彩りがともるのだろうか。この空虚が、なにものかで満たされる日が、くるのだろうか。あらゆる世界のあらゆる場所、そこに存在するあらゆる物質、あらゆる生命の内に存在していながら、そのいずれにも関わることのできない空虚、私の心にうがたれた、この、深く暗い、穴を。私は待とう、この世界の完成を。そして、その後に訪れる、静寂と、真の安らぎを―。
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