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「重音ちゃんおはよう!今日も可愛いねぇー、」
目尻を細めておばちゃんは私にそう言った
「おはようございます。ありがとうございます…」
可愛いだとか綺麗だとか好きだとかもう言われても何とも思わない
どうせ、明日になればその言葉全部無かったことになる
ほんのり冷たい春の風が甘かった
「おっ、重音ちゃんおはよー!」
私の右手側から声がした
妖精のように可愛い顔をこちらに向けて手を振ってきた
私の隣で働く真城(まき)だ
「おはよう。」
「重音ちゃん!」
「んっ?」
一瞬悪戯な笑みを浮かべて突然私の目の前にちょこんと立った
「重音ちゃんお誕生日おめでとうー!」
と勢い良く抱きついてきた真城を優しく抱きとめた
「わっ!覚えててくたんだ、嬉しい…」
「今回で何回目のお誕生日なの?」
吸い込まれそうになるほど艶っぽくて猟奇的な瞳だった
「え、えーとね20かな?」
「あれっ、今年成人なの?」
真城は私の体から離れたものの腰には手を回したままだった
こういうのってやっぱり……
邪念を払いのけようと無理やり答えた
「そうだ…よ。」
「成人式ってどんな感じなの?」
「どんな感じって…私、成人式出てないし…。」
真城は何か不味い物でも食べたような顔をした
「そっか、ごめんね…なんか…私来年成人式だからそしたらどんな感じか教えるね!」
そう言って真城はニコっと笑った
「もうちょっとでお店開くねー。じゃあ戻るね、また後で!」
パタパタと駆けて行った真城の残り香に胸がキュッとなった
成人式なんて出れるわけないじゃない…だって……
だって………
私は沢山の男性に恋を教える…
遊女だから。
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