引き摺りこむ手

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 愛しい君の顔が浮かぶ。  声にならない言葉が脳裏で繰り返され、言葉にならない音は波にいとも簡単に呑み込まれていく。  咳き込んで吐き出す余裕もないほどに、波は鼻腔に、口腔に、塩辛い水を流し込み、涙でぼやけた視界は飛沫の透明な白い泡しか映し出さない。  君の顔もぼやけていく。
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