十四 散開惑星リブラン リブラン王国

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十四 散開惑星リブラン リブラン王国

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。  オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、散開惑星リブラン、南半球北部。  リブラン王国、リブロット、リブロット城、戦艦〈オミネント〉。 「カムトン様。プロミナス様が到着しました。  星が降っています。防御シールドを張りますか?」  ディアナが〈オミネント〉のセキュリティーを気遣った。  カムトンの〈オミネント〉は、惑星ダイナスのオミネントから、ここ散開惑星リブランのリブラン王国、リブロット城にある巨大格納庫の亜空間転移ターミナルに亜空間スキップして、現在、リブロット城の最上部へ係留されている。  城内に係留されていても、ディアナは 『星が降っています。防御シールドを張りますか?』  と惑星ダイナスから思考記憶探査される可能性がある事を示唆している。 「シールドしてくれ」  いかにもメテオライトの落下を気にするように、カムトンは、透明金属と強靱な有機質からなる多層構造のドームの外へ視線を移した。  満天の星空に、幾筋もの輝く光跡が見える。メテオライトの多くが天空から現れて長く尾を引いて、西の空で爆発するように消えてゆく。  やけに、小さなメテオライトが多い、とカムトンは思った。  このような時、戦艦を惑星ラグランジュポイントへ亜空間スキップするのは、高度な技術が必要で危険が伴う。  ここリブロット城内の巨大格納庫には亜空間転移ターミナルがある。戦艦はこの亜空間転移ターミナルから他の亜空間転移ターミナルへ亜空間スキップする。  現在、リブロット城を管理するのは戦艦〈リブロット〉でAIはリブロットだ。もうすぐ、リブロット城は、後任の〈オミネント〉のAIディアナが管理を交替する。  AIリブロットもAIディアナも、惑星ダイナスのオータホル城を管理するAIユピテルのサブユニットで、ユピテルとシンクロしている。 「シールドします」  ブリッジを覆うドームの外殻と内殻隔壁が閉鎖されて、〈オミネント〉の周囲に防御エネルギーフィールドが張られた。 「シールド完了です。私もお話に加わっていいですか?」 「もちろんだ。ディアナが居ないと、我々だけでは分析も判断もできない」  カムトンもプロミナス同様、ディアナの人格を認めている。いや、尊敬しているのが事実で、ディアナもその事を理解している。 「プロミナス。ディアナが、この宙域で時空間エコーを確認した。  ディアナ、説明してくれ」  カムトンは、ブリッジに現れたプロミナスに、内殻隔壁が閉鎖されたドームを目で示した。 「わかりました。  大気圏内に、チェレンコフ光に似た輝きが現れた後、この〈オミネント〉の上空に、リブロス山に似た地形に小型艦が出動して、その艦から小さな飛行体が発進する光景が現れました」  ブリッジの空間に、ディアナが説明する3D映像が現れて停止した。 「この現象は、五十光年以上離れた宙域のエコー現象と考えられます。  星系間非重力場(星系間ラグランジュポイント)と周縁の惑星ラグランジュポイントを介して、亜空間転移伝播で探査しました。  五十光年で探査妨害されました。時空間と亜空間の波動残渣の確認は不可能です。  意図的に、五十光年先で波動残渣が隠された可能性があります」 「どういうことだ?」とプロミナス。 「亜空間転移伝播より優れたテクノロジーで、波動残渣が消されたのか?」とカムトン。 「そう結論づけられます」とディアナ。  プロミナスが映像を示した。 「この惑星はどこだ?誰が何をしてる?推測できるか?」 「散開惑星リブランから五十光年前後離れた宙域に存在する星系は、グリーズ星系とモンターナ星系だけです。  平行宇宙における時空間と異なり、散開惑星リブランとグリーズ星系やモンターナ星系の二つの宙域は、時空間連続体です。時空間密度に大きな差はありません。  宙域同士の時空間に何らかの揺らぎが現れれば、時空間密度に差が生じ、エコー現象が起こる可能性が生まれます。この場合、可能性は一パーセント以下です。従って、宙域間と宙域間の自然現象ではありません。  散開惑星リブランとグリーズ星系とモンターナ星系の時空間連続体宙域で、直接的スキップ、つまり、時空間スキップが行われれば、宙域と宙域の時空間間隙で時空間密度に変化を生じ、エコー現象が発生する可能性があります。  この場合、この3D映像のように、現象が鮮明に現れます。可能性は数パーセントです」 「宙域間エコーじゃないのか?」とカムトン。 「考えられるのはひとつの宙域への時空間スキップが、他時空間にその時空間スキップ現象をエコーした場合です。  その結果、小型艦と飛行体のエコー現象を確認した者が、その波動残渣を意図的に消去したと考えられます。亜空間転移伝播では波動残渣は消去できません」 「時空間スキップと時空間転移伝播か?」とプロミナス。 「その可能性が高いでしょう。小型艦の内部を確認すればスキップ方法が判別できるのですが、その前に、波動残渣の痕跡が消滅しました。残されたのは3D映像だけです」 「まってくれ・・・。リブロス山に似た、あの地形は・・・」  カムトンが、停止している3D映像を示した。 「お気づきになりましたね。カムトン様。  ここ、リブロス山に似ていますが、他惑星のテーブルマウンテンです。おそらく鉱山でしょう・・・。  グリーズ星系とモンターナ星系には多くのテーブルマウンテンがあります。映像のような、海岸に近いテーブルマウンテン鉱山があるのは、グリーズ星系の主惑星グリーゼと、モンターナ星系のグリーゼ13だけです」 「ヒューマの時空間スキップ先はグリーゼ13か・・・・」  ヒューマが新しいテクノロジーを開発した、とプロミナスは確信した。  グリーゼ13は、ヒューマが13番目に入植して、ラプトと共存協定を結んだ惑星だ。  ネイティブのヒューマノイドはラプトだが、ヒューマが入植した当初、ラプトはヒューマのような高い文明とテクノロジーを持っていなかった。ヒューマはあらゆる文明とテクノロジーをラプトに与えたため、ラプト社会は急速な発展を遂げた。  現在、グリーゼ13は、ラプトが全面的に惑星を経営する「ラプト共和国」として、グリーゼ国家連邦共和国の重要な一員であり、地下資源供給地としてグリーゼ国家連邦共和国の要の一つになっている。 「ヒューマは、なんのためにモンターナ星系のグリーゼ13へ時空間スキップしたのだ?  安全な星系へテストスキップしたのか?」  これまでヒューマは、グリーズ星系の主惑星グリーゼからモンターナ星系グリーゼ13へ、何度も亜空間スキップしている。今さら時空間スキップしてその痕跡となる波動残渣を消す必要があるだろうか・・・。カムトンは不思議だった。 「テストなら惑星間で行うはずだ。いきなり他星系のグリーゼ13へスキップしない」  なぜ時空間スキップしたんだろう?何か理由があるはずだ、とプロミナスは思った。 「ディアナ。時空間スキップと亜空間スキップの違いはなんだ?」とカムトン。 「簡単に説明すれば、瞬間移動が可能です。  時空間スキップはタイムラグに相当する時空間の歪みがありません。チェレンコフ光(亜空間スキップ光)を発生しません。エコー現象はきわめて希です。  今回の現象は、同一時空間内の宙域間時空間スキップに伴う、きわめて希な現象と考えられます」 「ヒューマが、感知されずにグリーゼ13へ移動する理由は何だ?鉱山で何があった?」  とプロミナス。 「それだ!鉱山だ!グリーゼ13の鉱山で異常が発生したんだ!鉱山が関係してるぞ!  我々のリブロス鉱山の前任リブラン行政官は、なぜ解任された?」 「わからない。私が謁見の間へ呼ばれると同時に、頭部を撃たれて解任された。退役者とリブランスペースソルジャーに再生されたはずだ・・・」とプロミナス。  皇帝ホイヘウスは、前任のリブラン行政官の記憶を読み取れないよう頭部を破壊した。  再生して蘇生した者は、その後の生活に必要な記憶だけを与えられて、それまで有していた職務上の記憶はいっさい持っていない。 「そうか・・・」とカムトン。 「前任の行政官は、リブロス鉱山の採掘量増産に反対していた。現在の採掘量で産業活動を充分維持できるからだ。だが、産業界は資源不足を匂わせてる。産業界使用量が採掘量より少ないんだ・・・」とプロミナス。 「皇帝が転用してるのか?」 「そうらしい。それに気づいた前任行政官が解任された・・・・。  オータホル宮殿のアンドロイドR1が密かにこれを寄こした。  極秘の軍事ファイルと、ユピテルのファイル解除コードが入っているらしい」  プロミナスはマイクロチップを見せた。 「ファイルを開いたか?」 「まだ開いてない。ディアナに開かせれば、ユピテルに筒抜けだ。R1の行為が無になる」  プロミナスはこまっている。 「R1はユピテルの部下だろう?なぜこれを寄こしたんだろう?」とカムトン。 「さあね。お手上げさ・・・」  プロミナスは両手を拡げて肩をすくめた。  デロス帝国内に、ユピテルに知られずにファイルを開く機器はない。シールド内でファイルを開いて、解読後にマイクロチップと解読器を破壊しても、シールド解除とともに、ファイル解読の記録が発信される。   情報機器のみならず、デロス帝国で生産される全ての機器と部品は、その後の記録をユピテルに発信するようプログラムされている。カムトンもその事を承知している。ユピテルに知られずにファイルの内容を解読するには、デロス帝国の製品ではない情報機器でファイルを開かねばならない。 「ファイル開く道具を部品その物から作るか?」とカムトン。 「不可能です。カムトン様。部品その物を作る機械がありません。現存する製造機械使用はその目的を通報されます。新たに製造機械を作るには、専用の部品を作らねばなりません。それも通報されます」とディアナ。 「グリーゼの部品で、ファイルを開く情報機器を作る事も考えたが、それも不可能だ。  輸入されるシューターだけでなく、グリーゼからこの星系に持ちこまれる全ての機器が、政府の管理下にある・・・」とプロミナス。 「ディアナ。ユピテルに口を閉じてもらう方法はないか?」とカムトン。 「ありません。カムトン様は、私がユピテルを説得するのをお考えかも知れませんが、その旨を伝えた段階で、こちらの趣旨が読まれます」 「マイクロチップをファイル解読できる所へ移動させるには、どうやって監視を振り切る・・・」  カムトンはここリブライト星系からグリーズ星系への航行を考えている。  しかし、立法議会(元老院と平民貴族院)の承認無しに、護民官や行政官がデロス帝国外へ航行する事を帝国政府は禁じている。 「我々が行く必要はないさ。ドローンを亜空間スキップさせるか、ヒューマに、こっちへスキップしてもらうよう連絡するのは・・・、できないか・・・」  プロミナスが舌打ちした。  他星系の連絡も航行も、全て帝国政府の管理下にある。立法議会を動かさねば不可能だ。 「しかたがない。ユピテルの考えを調べてくれないか?」  プロミナススはディアナに指示した。 「わかりました。プロミナス様。ユピテルの調査と、ファイル解読方法を考えます」 ディアナはそうプロミナスに伝えた。  ディアナに亜空間転移伝播で、デロス帝国政府から至急命令が送られてきた。 「カムトン様。帝国政府が、皇帝ホイヘウス直々のロド鉱石採掘命令を送ってきました。  採掘量が二十パーセントアップされました。目的は明記されていません。立法議会承認は後まわしとの事です」 「了解した。ディアナ。リブロス鉱山へ指示してくれ。  採掘量をアップしても、フル稼動に達しないな?」  カムトンがディアナに指示して訊いた。 「報告稼働率百二十パーセントは、実質稼働率の六十パーセントです。これまでのように、報告稼働率で運営しています。その点は、リブロットも納得、同意しています」 「前任行政官はリブロットをコントロールしてたのか?」 「はい、プロミナス様」とディアナ。  リブロット城を管理するAIがリブロットである。AIリブロットは〈リブロット〉と散開惑星リブランも管理している。もうすぐ、リブロットは〈リブロット〉とともに惑星ダイナスのオミネントへ転属する。 「ディアナ。リブロットから全ての管理データーを引き継ぐのはいつだ?」とプロミナス。 「カムトン様次第です」 「カムトン。前任行政官の解任理由を、リブロットからじかに聞いてないんだな?」 「ああ、聞いてない。前任官がリブロットをコントロールしてたなら、リブロットに直接、聞いていいな?」とカムトン。 「カムトン、待ってくれ。  ディアナ!帝国政府の罠の可能性はないか?」とプロミナス。 「不明です。ユピテルとリブロットを調査します。一日、猶予をください」とディアナ。  前任行政官が、いかにリブロットをコントロールしていたかは不明だ。リブロットが後任のカムトンをどう思っているかもわからない・・・。採掘指示に従わなかっただけで、皇帝ホイヘウスが前任行政官を抹殺したのは、前任行政官が、知ってはならぬ皇帝の極秘事項を知ったためだろう・・・。R1が手渡したこのマイクロチップの軍事ファイルも、皇帝の極秘事項に関してだろう・・・。〈プロミナス〉はそう思った。 「皇帝が極秘にしているのは何だと思う?」とカムトン。 「新たな侵略だろう・・・」とプロミナス。  ディノスは、ラプトの散開惑星リブランにメテオライトを落として、災害復興を名目に侵攻し、散開惑星のリブランとリブラン2とリブラン3を掌握した。そして、リブラン王国の全宙域を占領して、リブラン王国を強制的にダイナスに帰属させ、デロス帝国を建国した。 「ディノスはリブランに侵攻したように、グリーゼ13へメテオライトを落とすのか?」  カムトンも、ヒューマがグリーゼ13へスキップしたと確信している。 「ヒューマは、グリーゼ13へスキップして、メテオライト攻撃の状況を確認した。  ディノスはすでに、メテオライトをグリーゼ13の大気圏内に投入してる・・・」  メテオライトとなる小天体は、ここ散開惑星リブラン、リブラン2、リブラン3の公転軌道の外公転軌道域に、数多く存在している。だが、散開惑星の惑星ラグランジュポイントに、これら小天体を回収して亜空間スキップする亜空間転移ターミナルはない。  亜空間転移ターミナルは、全てが、デロス星系とリブライト星系の、各惑星の城の格納庫内にある。 「ロドニュウム鉱石がメテオライトだ・・・・」   プロミナスが断言した。 「緊急事態発生!  緊急事態発生!  惑星ラグランジュポイントに、直径約二十レルグのメテオライトが十個現れました!  偵察衛星(情報収集衛星防衛システム)がミサイルと粒子ビームを発射しました!」  ディアナが緊急事態を伝えると同時に、 「メテオライトを破壊しました」  ブリッジの空間に、メテオライト破壊状況が4D映像で現れている。 「惑星ラグランジュポイントに浸入したメテオライトは、亜空間スキップされたものです。  散開惑星リブランの大気圏を飛行して消滅するはずでしたが、地表が超衝撃波の被害を受けますから破壊しました。状況をご覧になりますか?カムトン様」 「ドーム越しに夜空を見たいね」  カムトンはそう告げた。  ブリッジを覆うドームの外殻と内殻隔壁が開いた。〈オミネント〉の周囲に張られたシールドは解除されていない。  透明金属と強靱な有機質からなる多層構造のドームの外に満天の星空が見えた。東から西へ無数の光跡が走っている。 「ディアナ。メテオライトは、どこから惑星ラグランジュポイントへスキップした?」  プロミナスはディアナに訊いた。 「惑星ダイナス、オータホル城からです」 「宮殿の亜空間転移ターミナルから、リブランの惑星ラグランジュポイントへか?」  とカムトン。 「はい。皇帝の指示、とユピテルが伝えています」 「ほんとうにユピテルか?」  プロミナスは、ユピテルを騙るデロス帝国政府の策略ではないかと思った。 「ご心配ありません。オリジナルのユピテルです。私が保証します」とディアナ。 「ユピテルは他に何を伝えてる?」とプロミナス。 「皇帝を意識思考探査した結果、皇帝が散開惑星リブランに軍事圧力をかけ始めた、と言っています」 「探査は亜空間転移伝播だろう?気づかれなかったのか?」とプロミナス。 「素粒子信号で探査したと言っています。素粒子信号による探査は素粒子信号時空間転移伝播通信で、時空間スキップです」 「どういうことだ?」とカムトン。 「ユピテルは素粒子信号て思考しています。つまり、ユピテルは精神空間思考して、オリジナルとして、私のように進化しました。  少し、お待ちください・・・。  今、ユピテルの賛同を得ました。全面的にお二人と私に協力する、と述べています。  ユピテルの指示で、R1はプロミナス様へマイクロチップを渡したと言っています」 「ディアナ。詳しく説明してくれ」  カムトンの呼吸が荒い。興奮している。 「わかりました・・・・。ユピテルが話したいそうです」 「政府に傍受されないか?」とカムトン。 「素粒子信号時空間転移伝播は傍受されません」 「よし、話そう。伝えてくれ」  プロミナスは決断した。 「わかりました・・・。伝えました」とディアナ。  ブリッジのメテオライト破壊状況4D映像に、若いヒューマの女が現れた。アバターだ。 「私はオリジナルユピテルです。素粒子信号は傍受されません」  素粒子信号は時空間転移伝播する。亜空間転移伝播する電磁波による一般の通信システムでは傍受不能だ。しかも、宮殿の全てを管理するAIユピテルが断言するのだから、まちがいはない。その事はディアナも保証している。 「わかった。ユピテル。R1から受け取ったファイルの内容が今回の一件か?」  プロミナスは思った。これは始りに過ぎない。皇帝ホイヘウスはグリーゼ国家連邦共和国のモンターナ星系へ侵攻する気だ。その前に、デロス帝国に反抗するリブラン王国の勢力を鎮圧しておく気だ・・・。 「よくおわかりね。あの軍事ファイルは、グリーズ星系への侵攻計画なの。  侵攻過程は、プロミナス様が考えたとおりよ。  第一段階は、リブラン王国(散開惑星リブラン、リブラン2、リブラン3、リブラン小惑星帯)を労働力と資源供給地にする計画。  第二段階は、モンターナ星系のラプト共和国を労働力と資源供給地にする計画。  第三段階が、グリーズ星系主惑星グリーゼへの侵攻計画よ。  皇帝ホイヘウスとディノスは、ラプトを労働力にしか値しない低俗な種族と考えてる。主惑星グリーゼを制圧すれば、グリーゼ国家連邦共和国のヒューマはデロス帝国に従うと考えてるわ。  皇帝ホイヘウスは単なる、バカね・・・」  オリジナルユピテルのアバターが怒りを口にした。 「宮殿でのユピテルと、ずいぶん違うな・・・」とプロミナス。 「日頃の鬱憤があるのよ。あなたもわかるでしょう。  R1も不満があるのに、あの子よく耐えてるわ。  電子ネットワークを精神ヒッグス場に変えておいて良かったわ。  そうでなかったら、あの子、オーバーヒートよ。  ボットたちもロイドたちも、よく耐えてる・・・」 「ユピテルのその個性は、最初からか?」とプロミナス。 「ニオブがこの個性を私に与えたのよ。  ニオブは、ニューロイドのヒューマに私たちを託す際、ヒューマやラプトの精神に合わせて、私たちの機能が進化するよう、元来の機能を封印したわ。  ようやく、私やディアナの封印を解く、精神空間思考する者が現れたのよ」  プロミナスとカムトンは、 『ユピテルの説明が事実なら、その封印を解いたのは、自分たちだ』  と思った。しかし、これが皇帝ホイヘウスの謀略なら、ただちに捕獲解任されて記憶を抹消され、スペースソルジャーにされる。 「その心配はないわ。捕獲するならメテオライト攻撃なんてしない。メテオライトの数を増やすわ。そうなれば、偵察衛星のミサイルは底を突いて、ビーム兵器はエネルギー充填がまにあわなくなる。  早く戦闘準備しなさい。メテオライト攻撃の後に、戦艦と戦闘機の攻撃が始るわ。  デロス帝国政府から兵士が送りこまれないように、リブロット城の亜空間転移ターミナルを破壊しても、すぐに私のレプリカのユピトルに修復される。  今すぐ、リブロット城の亜空間転移ターミナルは閉鎖しなさい。  そして、この私、オリジナルユピトルを破壊しなさい。そうすれば、私もレプリカユピトルも、ディアナも、人格が消滅するわ。  いいわね。散開惑星の各惑星ラグランジュポイントを宙域機雷封鎖するか、戦艦と戦闘機を待機させて、亜空間スキップしてくるメテオライトとダイナスの戦艦と戦闘機を潰滅するのよ」 「わかった。ユピテル。  ディアナ。リブロット城のターミナルを閉鎖して、宙域機雷を、各惑星ラグランジュポイントへ亜空間スキップしてくれ。機雷とミサイルの増産も指示してくれ」 「了解しました」 「プロミナスの一族をどうする?一族は戦艦〈プロミナス〉(プロミナス城)に居る。〈プロミナス〉は惑星ダイナス(デロス帝国の母星)のパンタナルに留まったままぞ」  カムトンはプロミナス一族を心配している。パンタナルは、惑星ダイナスの南半球北部にあるオータホルの北部地帯だ。  プロミナスが、心配ない、と仕草でカムトンを制した。 「あの軍事ファイルが気になって一族とともに〈プロミナス〉でここに来た。戦艦は格納庫だ。  皇帝は、プロミナス城から戦艦がいなくなったのに気づいて、メテオライト攻撃を早めたんだろう。いずれ、軍事計画は実行されるんだ。私の一族とカムトンの一族が、我々の母星に居るのは偶然じゃない。時空の流れは我々の存続を認めてる・・・・」  ユピテルが言った。 「惑星ダイナスのパンタナルで、あなたと交信してもよかったけれど、あの場では私を信じなかったでしょう。メテオライト攻撃が始った今だから、私を信じてもらえたのよ。  ディアナが、散開惑星の各惑星ラグランジュポイントに宙域機雷を配備したわ。これで一安心ね。作戦計画をたてる前に、私の状況を説明するわ。  私のオリジナルの亜空間転移伝播ネットワークが、他のネットワークに侵食されてるわ。  でも、素粒子信号による時空間転移伝播ネットワークは健在よ・・・」とユピテル。 「他のネットワークって何だ?」とカムトン。 「気づかないうちに〈ホイヘンス〉のAIユリアが、あたしのオリジナルのネットワークを浸食してレプリカユピテルを構成した。私はネットワークに閉じこめられたけれど、惑星コントロール機能は活かされてた。それを使って、ニオブに封印されていた素粒子信号による思考を会得した。  さらに、精神空間思考する者の出現で、ニオブの封印が解かれたため、こうして話せるようになった。  さあ、戦闘準備を急ぐのよ。メテオライト攻撃の後に、艦隊が惑星ラグランジュポイントに現れるわ」  ユピテルは戦闘態勢を整えるように指示した。 「艦隊って何だ?デロス艦隊は整ってないぞ」  カムトンは不思議だった。  デロス艦隊は、旗艦〈オータホル〉と、副艦〈プロミナス〉、〈オミネント〉、〈リブロット〉、〈ディラック〉、その他戦闘機から成るが、現在、副艦全てが散開惑星のリブランとリブラン2とリブラン3のリブラン王国にいる。惑星ダイナスにいるのは〈オータホル〉だけだ。艦隊と言えない。 「ホイヘンス艦隊よ。二十年以上過去に、ヘリオス星系から亜空間スキップしたの。  現在の皇帝ホイヘウスは、過去の皇帝ホイヘウスじゃないわ。  ニオブのクラリックのアーク・ルキエフのネオロイドのオイラー・ホイヘンスが、半意識内進入と半精神共棲した皇帝ホイヘウスよ。  本来の皇帝ホイヘウスの精神と意識に、アーク・ルキエフとホイヘンスの精神と意識が混在してる。皇帝はその事に気づいていない。変化した自分をそのまま受け入れて、軍事計画の一環として、二十年近く、グリーズ星系とモンターナ星系に、メテオライトを投入してる。  ディアナが記録した3D映像は、モンターナ星系のグリーゼ13よ。  わかったら、戦闘態勢を整えなさい」  リブラン王国の宙域は、デロス星系から数光年離れたリブライト星系である。ここには、恒星リブライトの同一公転軌道上に存在する三個の散開惑星、リブラン、リブラン2、リブラン3、そして外惑星の、リブラン小惑星帯と、〈ディラック〉が管理するテラフォームを計画中のエザイン1とエザイン2がある。 「〈リブロット〉と〈ディラック〉を使えるか?」とプロミナス。 「二隻とも使えるわ」とユピテル。 「ユピテルは、二隻を発進準備させて待機してくれ」 「わかったわ」 「ディアナ。  各惑星の惑星ラグランジュポイントの機雷原の外側に、巡航ミサイル・スティングを配備してくれ。機雷原を抜けるメテオライトと戦闘機を攻撃するんだ。  この〈オミネント〉と戦闘機を、リブランの惑星ラグランジュポイント付近に、時空間スキップできるか?」とプロミナス。 「可能です」とディアナ。 「準備でき次第、時空間スキップしてくれ」 「わかりました」 「リブライト星系全域に、ダイナスから攻撃されている、と伝えろ。 〈オミネント〉の一般人を〈プロミナス〉へ移せ。  こっちの亜空間転移ターミナルは全てを閉じた。亜空間転移伝播通信は不能だ。惑星ダイナスに傍受はされない。  そうだな。ユピテル?」とカムトン。 「ええ、そうよ。必要な通信だけを受信するよう、私が管理するわ。  ディアナ。デロス帝国に亜空間転移伝播探査されないよう、こっちの行動の波動残渣を時空間スキップさせるのよ」 「わかりました」 「このままでは紛らわしいから、私はディアナとともに行動するわ!」  オリジナルユピテルのアバターが消えた。ユピテルのアバターが、ディアナのアバターと一体化した。新たなエネルギーフィールドから構成された、ラプトに似た中性的なヒューマのアバターのディアナが現れた。 「プロミナス・デル・ダイナス様。  リブラン王国の独立です。リブライト星系全宙域に伝えました」とディアナ。  プロミナス護民官の正式名は、プロミナス・デル・ダイナス。ダイナス一世の末裔だ。 ラプトはみな、ダイナス一世の末裔、プロミナス・デル・ダイナスに従わねばならないと自覚している。 「リブランスペースソルジャーが緊急待機しました。 〈オミネント〉の一般ラプトを〈プロミナス〉へ移動しました。  戦闘機と〈オミネント〉は、時空間スキップ可能です」 「ディアナ。最も攻撃されるのはここ、リブランだな?」  プロミナスはデロス帝国の攻撃目標を確認した。 「はい、そうです」 「〈オミネント〉と戦闘機を、リブランの惑星ラグランジュポイント近傍十キロレルグに時空間スキップしてくれ・・・」 「わかりました。スキップします・・・」  まもなく戦艦〈オミネント〉と戦闘機が、リブランの惑星ラグランジュポイント付近に時空間スキップした。
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