十八 リブラン王国の攻防

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十八 リブラン王国の攻防

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月六日。  オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、散開惑星リブラン。  惑星ラグランジュポイント、戦艦〈オミネント〉。 〈オミネント〉のブリッジの空間に表示されている5D座標に、青白い閃光の時空間スキップ光が現れた。惑星ダイナスのオータホル城から時空間スキップしたのはモーザだ。  瞬時に、ディアナはモーザの時空間スキップ経路を分析して出現域を散開惑星リブランのリブロス鉱山と割り出し、リブロス鉱山から直径一アルム(約五十センチメートル)ほどのロドニュウム鉱石を時空間スキップさせた。  リブロス鉱山の5D座標が青白く瞬いて、ブリッジの空間に4D映像表示されたリブロス鉱山上空に、モーザが出現した瞬間、金属光沢のモーザがロドニュウム鉱石の輪郭に重なり、一瞬に膨張して粉々に砕け散った。 「すばらしいタイミングだ!ディアナ!」  ヒューとカムトンが口笛を吹くように溜息をついた。 「二つの物体が同一時空間座標に、同時存在するのは不可能ですよ」  ディアナは4D映像を示している。 「今のモーザは偵察か?」とプロミナス。 「偵察です。オータホル城を4D探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)したいのですが、マスタープロミドンが伝えたように、皇帝の亜空間転移伝播探査が気になります。  こららからの4D映像探査に、モーザがどのように反応するか判断できません」 「5D座標表示で状況は知れる。無理に状況を知る必要はない」とプロミナス 「モーザがスキップしました!」  ディアナは瞬時に対応した。  惑星ダイナスの5D座標に、二十個のスキップ光が現れて消えた。  5D座標で、散開惑星リブラン3と外惑星エザイン1が青白く瞬き、両惑星の静止衛星軌道の4D映像にスキップ光が瞬いた瞬間、二十個のロドニュウム鉱石と二十個のモーザが現れて、一瞬に崩壊した。 「破壊完了です!」 「ディアナ!よくやった!感謝するよ!  皇帝は、リブラン3とエザイン1に何をする気だ?」  プロミナスは4D映像を見た。現在、〈オミネント〉は散開惑星リブランの惑星ラグランジュポイント付近にいる。 「皇帝の目的は、リブラン小惑星帯のロドニュウム鉱石です。  小天体のロドニュウム鉱石を、資源とメテオライト攻撃に使う気です」とディアナ。 「どうやって小惑星を移動させる気だ?」とカムトン。 「モーザの目的は、リブラン小惑星帯の亜空間転移ターミナル建設です」とディアナ。  リブラン小惑星帯に、デロス帝国の亜空間転移ターミナルはない。惑星ラグランジュポイントが存在する小惑星は、天体規模が惑星並みに大きな天体に限られる。 「〈リブロット〉と〈ディラック〉は、ディアナの管理下か?」とプロミナス。  惑星ダイナスの〈オータホル〉は、〈ホイヘンス〉のAIユリアの支配下だ。AIユリアに〈リブロット〉と〈ディラック〉が支配されている場合、皇帝ホイヘウスに対抗できない。 「私の管理下です。リブラン王国宙域に留まる私のプロミナス艦隊が、ユリアに支配されることはありません」  ディアナは、素粒子信号による精神空間思考を時空間転移伝播させて〈プロミナス〉、〈オミネン〉、〈リブロット〉、〈ディラック〉をコントロールしている旨を示した。 「ディアナ。四戦艦を、リブラン王国宙域に配備したい。  その前に、各戦艦に乗艦している一族たちを〈リブロット〉へ移して欲しい」 「わかりました。〈プロミナス〉と〈ディラック〉に居る、皆様の一族を〈リブロット〉へ時空間スキップします。しばらくお待ちください。  皆様の一族がどの戦艦に居ても、コントロールポッドが保護します。安全ですよ」  ディアナはプロミナスとカムトンを気遣っている。 「わかってる。ディアナを信頼してる。  ラプトの習性で、一族が地上に居たいと言うから、リブランに居てもらうだけさ」 「その気持ち、とても、よくわかります・・・。  皆様を〈リブロット〉にスキップしました。  リブライト星系防衛態勢を教えてください」  ディアナはプロミナスに微笑んだ。 「わかった。 〈リブロット〉は散開惑星リブランから、リブラン2、リブラン3を管理防衛する。 〈オミネント〉は散開惑星リブラン、リブラン2、リブラン3の宙域を管理防衛する。 〈プロミナス〉はリブラン小惑星帯の管理防衛だ。 〈ディラック〉外惑星エザイン1とエザイン2の宙域管理防衛だ」  プロミナスはリブライト星系防衛態勢を伝えた。 「わかりました。各戦艦を配備します」  各戦艦が防衛配置に着いた。 「〈オミネント〉、〈プロミナス〉、〈ディラック〉、〈リブロット〉の配備が完了しました。各指揮官を招集します」  ディアナの声とともに、〈オミネント〉のブリッジに3D映像が現れた。 〈ディラック〉艦長のデラクレス・ディラック(ラプト)と、前任行政官の後継者で〈リブロット〉艦長のラブロス・ジュニア・リブロット(ラプト)、そして、それぞれの戦艦を管理するAIのディアナ、ユピトル、ディラック、リブロットである。 「ディアナはメインユニットだ。ディアナに指示すれば、各艦を一箇所でコントロールできる。各艦乗組員はスペースソルジャーを除けば、多くが、直接、ディアナの指示に従うアンドロイドとロボットだ。  指揮官を各艦に乗艦させるか、一箇所に集めて指揮するか、ラプトの安全を考えれば重要問題だ。皆の考えを聞きたい」  プロミナスは3D映像を見つめた。 「プロミナス様。コントロールポッドがあります。どの艦に居ても、指揮官とスペースソルジャーの安全は保証されます」とディアナ。 「ディアナ、その事は理解してる。皆はどう考える?」 「現在のように3D映像とアバターで戦略討議が可能だ。指揮機能を一箇所に集める必要は無いだろう。今もプロミナス護民官の指揮に従っているんだ」  護民官プロミナスの正式名は、プロミナス・デル・ダイナス。ダイナス一世の末裔だ。『皆が、プロミナス・デル・ダイナス。ダイナス一世の末裔の総指揮官プロミナス護民官に従わねばならない』  と〈リブロット〉艦長のラブロス・ジュニアは思っている。 「デラクレスとカムトンの考えは?」 「どちらの場合も指揮管理は同じだが、指揮官が搭乗する戦艦が損傷した場合、艦艇の回収に、脱出したポッド回収が加わる」と〈ディラック〉艦長デラクレス。  脱出したコントロールポッドの回収は手間ではない。プロミナスたちがコントロールポッドを回収する前に、指揮官が皇帝の艦隊に捕捉されれば、指揮官は思考記憶探査され、プロミナスたちの戦略は筒抜けになる。それは避けねばならない・・・。 「緊急時、私の思考記憶探査で、記憶の消去も書き換えも可能です。しかし、そのようなことは、避けるのが適切です」とディアナ。 「それなら、ディアナたちコントロールユニットのアバターと指揮官たちを一箇所に集め、指揮官はアバターで各艦に存在して、コントロールユニットともに戦艦を指揮すればいいだろう」  カムトンは説明する。  アバターはエネルギーフィールドで構成される。実在しているのと同じだ。各艦のコントロールユニットはディアナのサブユニットだ。全て、素粒子信号によるディアナの精神空間思考の時空間転移伝播指示に従う。  各艦のコントロールポッドと同じポッドがこのコントロールデッキにある。〈オミネント〉に各艦の指揮官を集め、アバターの指揮官が自艦を指揮するのは可能だ。 「戦艦各部所の兵士も同様にすればいいと思う」とカムトン。 「皇帝も我々と同じに考えているだろう・・・。  皇帝の指揮機能はホイヘンス艦隊にもオータホル城にも存在していない。おそらく新たに建造しているオータホル艦隊にあると思う」とプロミナス。 「プロミナスは、皇帝の動向を考えていたのか?」とカムトン。 「そうじゃない。我々の指揮機能を考えたら、皇帝の考えがわかったのだ」 「なるほどな・・・」とカムトン 「〈プロミナス〉を旗艦にする!指揮機能を〈プロミナス〉に集める!  ディアナ!各艦乗組員を〈プロミナス〉へ時空間スキップしてくれ。  各艦長はスキップ完了まで防衛態勢を維持し、待機休息してくれ。  ディアナ、警戒態勢を強化してくれ」 「了解しました。 〈オミネント〉のコントロールユニットをユピテルが代行します。  私は〈プロミナス〉に戻ります。指揮機能は現況のままです」 「わかってるよ。ディァナ、ユピテル」  カムトンが承諾すると同時に、ディアナのアバターから、ユピテルが分離して出現した。  旗艦〈プロミナス〉がリブラン小惑星帯をゆっくり移動した。 〈プロミナス〉は直径二キロレルグの艦体に、リブラン小惑星帯の微小天体を貼りつけている。  リブラン小惑星帯で最も大きい小天体はケクレだ。直径一千キロレルグの準惑星とも呼べる小天体ケクレに、直径二キロレルグの小天体を模した〈プロミナス〉がゆっくり移動した。 〈プロミナス〉のブリッジに表示去れている5D座標で、惑星ダイナスの座標に青白いスキップ光が現れた。 「ケクレのラグランジュポイントに、モーザが出現します。  破壊します」  ディアナが伝えると同時に、4D映像に現れた小天体ケクレの惑星ラグランジュポイントにスキップしたモーザが潰滅した。破壊したモーザは、ケクレの惑星ラグランジュポイントに配備されている宙域機雷のシールドと牽引ビームに捕捉され、その場に留まった。  宙域機雷と、その外縁の巡航ミサイル・スティングは作動していない。 「つぎはアスロン編隊だ。宙域機雷とスティングを排除する気だ・・・」  プロミナスが指揮官たちに伝えた。指揮官たちはコントロールデッキのコントロールポッドでバーチャルディスプレイに対峙している。 「なぜだ?ダイナスの亜空間転移ターミナルは、全て破壊したぞ!」とカムトン。 「〈オータホル〉のユピテルのオリジナルを破壊していない。修復してる可能性がある」とプロミナス。  惑星ダイナスの5D座標に、赤みを帯びた青白いチェレンコフ光が多数現れた。  同時に、ディアナがケクレの惑星ラグランジュポイントに微小天体をスキップさせ、出現するアスロン編隊を潰滅してゆく。 〈ダイナス・アスロン〉の残骸と、脱出したコントロールポッドは、宙域機雷のシールドと牽引ビームに捕捉され、拡散せずにその場に留まっている。  妙だ?モーザも〈ダイナス・アスロン〉も、それぞれ百機以上を破壊した。破壊されずに脱出したコントロールポッドは、ラグランジュポイントに漂ったままだ。なぜ、リブラン攻撃と同じ攻撃をする?プロミナスは疑問に思った。 「回収艦が出現したら破壊しろ」とカムトン。  ホイヘンス艦隊の回収艦もオリジナル・ユピテルが修復した可能性がある。回収艦といえど攻撃艦だ。戦闘能力は攻撃専門の艦にひけをとらない。 「了解しました。 〈ダイナス・アスロン〉のコントロールポッドが集合します。合成攻撃機に変態し、亜空間スキップする気です」  ディアナが、宙域機雷のシールドに捕捉されて漂うコントロールポッドを示した。  宙域機雷のシールド内で、多数のコントロールポッドが集合して球状になった。  同時に、4D映像にエネルギー充填を示す赤い緊急シグナルが現れて、コントロールポッドの集合体が惑星ラグランジュポイントの中央へ移動した。  ディアナはただちに微少天体をスキップさせて、全コントロールポッドを潰滅し、強力なシールドと牽引ビームを宙域機雷から放った。モーザと〈ダイナス・アスロン〉とコントロールポッドの全残骸が一箇所に集って、宙域機雷から放った強力なレーザーで熔解昇華した。 「ディノスを殺戮するとは凄い!」 〈ディラック〉艦長デラクレスが驚愕の声を発した。 「殺戮していません。〈ダイナス・アスロン〉のコントロールポッドに居たのはモーザです。モーザは事前指令で、この惑星ラグランジュポイント奪取に出現したと判断できます」  小天体ケクレの惑星ラグランジュポイントに、ダイナスの亜空間転移ターミナルが無い限り、〈ホイヘンス〉のコントロールユニットのAIユリアは、即時的双方向亜空間転移伝播を使えず、モーザをコントロールできない。 「〈プロミナス〉の擬態を知られた可能性はあるか?」とプロミナス。 「ありません。現在、〈プロミナス〉の5D座標にモーザは現れていません」 「妙だと思わないか?」  プロミナスは説明する。  小天体ケクレの惑星ラグランジュポイントにモーザが現れて、次にモーザが搭乗したアスロン編隊が現れた。モーザも〈ダイナス・アスロン〉も破壊されたが、回収艦は現れず、〈ダイナス・アスロン〉のコントロールポッドが集合して合成攻撃体へ変態して亜空間スキップしようとした。モーザは他物体をスキップできないからだ。  アスロン編隊が小天体ケクレの惑星ラグランジュポイントに出現したのだから、オータホル城の亜空間転移ターミナルは修復されている。回収艦も艦隊も修復されたはずだ。なぜ、回収に現れない? 「艦隊移動は示されていない、艦隊修復されていないのだろう」 〈リブロット〉艦長ラブロス・ジュニアが、何も表示されていない5D座標と、リブラン宙域の各惑星に配備された情報収集衛星防衛システムの4D映像を示した。 「モーザが搭乗した戦闘機や艦艇は、時空間スキップできる、と考えられないか?」とカムトン。 「モーザに、他の物体を時空間スキップさせる能力はないわ」とユピテル。 「モーザが搭乗した〈ダイナス・アスロン〉がケクレの惑星ラグランジュポイントに現れたのです。  惑星ダイナスの全ての亜空間転移ターミナルは完全に修復されています」とディアナ。 「やはり、艦隊も修復されてる。  AIユリアが支配しているレプリカユピテルを破壊しなければ、艦隊の潰滅は不可能だ。レプリカユピテルを破壊したら、ディアナも消滅するのか?」とカムトン。 「一時的な消滅後に復活します。  レプリカユピテルを破壊する方法を検討してください・・・。  対策を考えましょう。ユピテル、リブロット、ディラック」  ディアナがAIたちを招集した。
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