九 プロミナス護民官

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九 プロミナス護民官

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。  オリオン渦状腕深淵部、デロス星系、惑星ダイナス、南半球北部。  デロス帝国、オータホル、オータホル城。  「護民官だ!」  プロミナスは各地階のセキュリティーゲートで、胸の二種類の称号を示した。 『頭上に惑星ダイナスを掲げる双頭の鷲』は平民貴族院の議員を、『ハンマーと鎌を持つ双頭の鷲』は護民官を示している。  元老院の『ダイナスを鷲づかみにする双頭の鷲』や行政官の『剣と盾を持つ双頭の鷲』に比べると屈辱的だ。  各階の親衛隊は慇懃無礼に、プロミナスのセキュリティーゲート通過を許可した。無理もない。親衛隊の多くがディノスだ。称号とは別に、ラプトのプロミナスを低階級に見ている。  ディノスの好きにはさせぬ・・・。  セキュリティーゲートを通りながら、プロミナスは、ダイナスの古代を語ったカムトンを思い出した。  超古代、精神生命体ニオブのアクチノン艦隊が、渦巻銀河ガリアナのグリーズ星系主惑星グリーゼに飛来した。  現在、グリーズ星系に生息するヒューマとラプトは、ニオブが精神共棲した類人猿の末裔であるヒューマンとラプトールの末裔のラプトロイドの、さらに末裔だ。  当初のニオブは主惑星グリーゼを拠点に、精神共棲したヒューマとしてアクチノン艦隊で恒星間移動をくりかえし、デロス星系のディノサウルスの末裔のディノサウロイドディノス・ディノスにも精神共棲を試みた。  しかし、ディノスの好戦的な凶暴性から、計画していた精神共棲を中止して、自然的進化の後に、再度、精神共棲を検討したが、ディノスの凶暴性は変らなかった。そして、ディノスはデロス星系のラプトを武力で支配するまでになった。  そこでニオブは、主惑星ダイナスの一人のラプトに精神共棲し、主惑星ダイナスを支配させた。皇帝ダイナス一世、プロミナスの遠い先祖の誕生だった。  惑星ダイナスの古代史は謎に包まれている。記録は無く、語部(かたりべ)もいない。全てがAIユピテルに封印されていると聞くが、封印を解く方法を、プロミナスをはじめ、ラプト行政官のカムトンも、他のラプトたちも知らない。  なぜ、為政者がラプトの皇帝ダイナス一世から、ディノスの皇帝たちに代ったか、知る者はいない。  オータホル宮殿を出たプロミナスはポートへ歩いた。監視システムは至る所にある。  ポートのカージオイド型単葉エアーヴィークル〈ガジェッド〉に搭乗してコントロールポッドに座り、プロミナスはいつものように〈ガジェッド〉全体とコントロールポッドをシールドした。これで、外部交信を許可しない限り、ポッドのセキュリティーは完璧だ。  プロミナスは握っていた右手を開いた。R1と握手した右手に、マイクロチップが貼りついていた。 「ディアナ、城へ帰る。発進してくれ」 「発進します」  急速垂直浮上した〈ガジェッド〉が、高度一キロレルグで急速水平飛行した。 「ディアナ、カムトンに繋いでくれ」 「わかりました・・・」  ディアナはプロミナスが指揮する戦艦〈プロミナス〉のメイン制御ユニットだ。一般ヴィークルから戦艦〈プロミナス〉まで、プロミナスが所有する全ての移動体と環境システムを管理する総合AIだ。  ディアナは何か伝えたい様子だったが、カムトンとの交信を優先した。  コントロールポッドの隣席に、カムトンの3D映像が現れた。カムトンは、オータホル宮殿の遥か北西部のオミネントを治める行政官で、平民貴族院のラプト議員だ。 「皇帝の話は済んだか?」 「リブランの行政官が解任された。カムトン。お前が後任になった。至急、リブランへ行け。皇帝が立法議会に指示した。全て承認済みだ」 「わかった。採掘が中断してるのか?」 「採掘は進んでるが量が足らない」 「また無理難題か?とにかく、リブランへ飛ぼう。何か理由をつけて、リブランへ来てくれ」 「わかった。必ず行く」  映像が消えた。 「状況は?」  プロミナスは、ディアナに交信状況を確認した。 「安全です。ハッキングはありません。  異常現象発生です。リブライト星系散開惑星リブラン(リブラン王国)の公転宙域に、チェレンコフ光(亜空間スキップ光)に似た現象が現れています」 「〈オミネント〉の亜空間スキップじゃないのか?」  カムトンの専用戦艦は戦艦〈オミネント〉だ。戦艦はここ惑星ダイナスから散開惑星リブランへ亜空間スキップする。 「〈オミネント〉は発進していません。  亜空間スキップではありません。私が確認しています」 〈プロミナス〉のメイン制御ユニットのディアナはAIだ。人格が存在する。プロミナスはAIの人格を認めている。 「分析結果をお知らせします」 「いや、城で検討しよう。城へ急いでくれ」 「わかりました」 〈ガジェッド〉はオータホルの北部、パンタナルへ超音速飛行した。
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