第1章

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プール開きが始まり、授業でも水泳が入った。 憂鬱なのは、僕だけだろうか? 水に顔をつけるだけでも嫌なのに、朝の洗顔は別として、水泳……。 ため息がでる。 学校の体育の先生は熱心な指導をする。 僕の逃げる場所はない。 消毒剤の入った小さな浴槽に入り、準備運動をする。 みんなはプールに普通に入ってゆくが、僕は入るのを躊躇っていたら、先生が実に爽やかにプールに入れと言ってきた。 覚悟を決めてプールに入る。 先程とは違う水の冷たさが全身を包んだ。 僕は顔だけは絶対に水につけないよう苦心してると、ボードが投げられ、顔をつけて泳ぐことを求められた。 それでも躊躇っていたら、級友が後ろから頭をおさえ、僕は顔を水につけて、息を派手に吹き出した。 途端、僕は見てしまった。 プールの水底にあるアレを……。 慌てて水から頭を出して、逃げるようにプールから出ようとするも、級友が邪魔をして出ようにも出れない。 焦れば焦るほど僕はプールにのまれてゆく。 足のつくプールなのに足がつかない。 嫌だ! アレに捕まりたくない一心でプールから出ようともがいた、途端。 アレが僕の足を引っ張った。 僕はプールの中に引きずられた。 級友は僕が足を滑らせただけだろうと思っているのかもしれない。 だか、実際には僕はアレにとらわれ、水の中でもがいた。もがけばもがくほど、空気が抜ける。 アレが増える。 増えて、僕の身体に絡みつく。 意識を失いかけた時、力強い腕に引っ張りあげられた。 「大丈夫か! 山崎!山崎!」 僕の名前を連呼する体育の先生を認め、僕は大量の水を吐いた。 その時、女子のひとりが悲鳴をあげた。 赤黒くついた無数の手の跡。 僕の身体中についた手の跡に、悲鳴がもれる。恐怖が伝染する。 アレの跡だということはすぐにわかった。 先生はプールに入っている全員を、プールからあげさせた。 僕がプールの水底で見たのは無数に群れた手の花畑みたいなもの。 ゆらゆら綺麗に揺れながら、何処かおぞましさを感じさせるものだった。 アレはなんだろう。 どこのプールにもあるのだろうか? 僕はその後以来、プールには入っていない。
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