36色の蛇口

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 次の瞬間……、男が目を開けると、すべてが消えていた。  36個の蛇口も、白い老人の姿も、何もかもが消え去っていた。  彼方まで、砂の海が広がっているだけだ。  男は何もない砂の上でひざまずき、口を開けていた。  そしてハンドルをひねるように、右手を上にあげている。  その右手の中から、サラサラと砂が流れ落ちていた。まるで蛇口から流れる水のように……  砂は、男が開けた口の中へと落ちていく。  男の口は、砂で溢れていた。  そのとき、砂漠に小さな風が吹いて砂が舞った。  男の頬から落ちた一粒の涙が、砂の上で小さな音を立てて蒸発する。  男はそのままの格好で、砂の上に倒れた。  そして、二度と立ち上がることはなかった。 『36色の蛇口』──了
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