36色の蛇口

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「水が欲しいのだろう?」  急に背後から声が聞こえて振り返ると、そこに老人が一人立っていた。  まっ白な髪の毛と長く蓄えた髭、着ている服までもが眩しいくらいに白い。そして老人の片方の手には、木の杖が握られていた。 「誰だ!」  男の乾ききった口から出たのは、しゃがれた声だった。  老人は男に近づきながら、うっすらと笑った。 「私か?そうだな……、『神』とでも言っておこうか」 「か、神だって!?」  男はひざまずいたまま、驚きの声を上げた。 「おまえは、水が欲しいのだろう?」  さっきと同じ問いに、男は戸惑いながらも勢いよく頷いた。とにかく、水が飲みたかった。 「そうか、では選べ」  老人はそう言って、杖を持ち上げた。 「ここに36個の蛇口がある。だが、そのうち水が出るのは『ひとつ』だけだ。おまえに、3回だけ選ばせてやろう」  呆然とする男の顔を見ながら、老人はもう一度言った。 「選べるのは、3回だけだ」
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