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その言葉が終わるや否や、男は蛇口に向かって走りだした。
どの蛇口を選ぶかなど、考えてはいなかった。
ただ水を欲する自分の欲望に従って、最初に目についた蛇口に駆け寄った。
──赤い蛇口だ。
蛇口の前にひざまずき、そこから流れ出るはずの水を受けとめようと大きく口を開けて蛇口をひねった。
しかし何度ハンドルを回しても、蛇口からは一滴の水さえ出ない。
男は興奮した様子で、ハンドルを回し続ける。
ハンドルが開ききって動かなくなったとき、男はその蛇口が「ハズレ」なのだと気づいた。
老人のほうに目をやると、白い髭を撫でながら笑っていた。
そして杖を持ちあげて、こう言った。
「あと2回だ」
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