36色の蛇口

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 男は唾を飲み込もうとしたが、口の中には微かな水分さえ残っていない。  どれでもいいからすぐに駆け寄って、蛇口をひねりたい衝動に駆られた。  だが自分を取り囲んでいる36個の蛇口のうち、水が出るのはひとつだけだ。  そして、選べるのはあと2回。  男は、はやる気持ちを落ちつかせて考えた。  36個の蛇口は、どれも形も大きさもまるで同じだ。  違っているのは「色」だけだ。36色の色鉛筆のように、全てが違う色をしている。  男は迷った。あてずっぽうに選んだなら当たる確率ははるかに低い。 「色は、それぞれ違う意味を持っている」  不意に、老人の声がした。 「意味……」 「ヒントをやろう……、それは、お前にとって大切なものだ」  老人は、男を試すような口調で言った。
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