36色の蛇口

6/10
前へ
/10ページ
次へ
「大切なものって何だ……、俺にとって大切なもの」  男は考えた。暑さと渇きで朦朧とする中、必死に考えを巡らせた。 「そうか!」  そのとき、何かがひらめいた。男は勢いよく立ち上がって、蛇口に向け走りだした。 ──金色の蛇口だ。  間違いない……、そう確信してひねった蛇口だったが、またしても水は出なかった。  男は、がっくりとうなだれた。 「金色……すなわち『カネ』だと思ったんだな」  老人が言った。 「お前が子供だった頃、父親の作った借金のせいで一家は離散した。その後も貧しい生活を強いられたお前は、中学を出てからすぐに働き始めた」  まるで男の人生を知りつくしているように、老人は話し続ける。 「お前のカネへの執着は並はずれたものだった。だがその執着のおかげで、お前は起業家として成功したのだ」 「だったら、なぜ水が出ないんだ!」  男は、老人に向かって怒鳴った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加