36色の蛇口

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 二日前、男が乗った飛行機が、砂漠の中へ墜落した。  男は新婚旅行へ向かう途中だった。  隣の席には結婚したばかりの妻、美咲が座っていた。  粉々になった機内で、男は奇跡的にたいした怪我もなく無事だった。  他に生存者の姿は見えず、周りには死体や肉片が転がっていた。  男が機内から外へ出ようとしたとき、声が聞こえた。 「助けて……」  美咲の声だった。  血まみれになった美咲が、機体の間に身体を挟まれていた。  男は助け出そうとしたが、美咲の身体に覆いかぶさる鉄の塊はびくともしない。  美咲の声が、だんだんと小さくなっていく。  そのとき、男は握っていた美咲の手を離した。  まだ生きている美咲を置き去りにして、一人で飛行機の残骸を後にしたのだ。  自分だけが生き残るために……
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