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「へ、嘘」
「ほんまやで、ほら」
思わず嘘つき呼ばわりしてしまった私を気にする様子もなく、彼が窓を開ける。
すると少し離れた道の向こうには大きな公園が広がっていて、ちらほらと歩く人の姿が見えた。
「はらっぱ公園。知ってる?」
聞いたことは、ある。
なにやらポニーに乗れたりするらしい公園だ。
うちとは少し方向が違うから来たことはないけれど、確かにここは南長崎らしかった。
「……うちも、南長崎です」
「……マジで?」
「……方向が違うんでこの辺りには来たことないんですけど」
おどおどと言葉を紡ぐとその人もわずかに目を丸くする。
そりゃそうだ。あまりに都合のいい偶然に私だってびっくりだ。
……だからといって運命なんて勘違いはしないけれど。
とにかく、ここからなら少し場所を教えてもらえば多分歩いても二、三十分で帰れる。
とりあえず早よ帰ろ。
思いの外家が近かったことに少しだけほっとした私は、それからすぐにお手洗いと洗面所を借りて簡単に身支度を整えた。
「ほな気ぃつけてな」
ひらひらと手を振って見送ってくれた彼の部屋のドアが閉まると、ようやく安堵のため息が漏れる。
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