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「何かあったら言って。わかった?」
真剣な顔で紡がれたその言葉にはきっと、この扉の向こうも含まれているに違いない。というかむしろそっちが本命だと思う。
私にとって今一番の現実的な問題はあの人ではなく、こっちだ。
「……うん」
ドクドクと嫌な主張をし始めた心臓を、ごくりと唾を飲んで落ち着かせる。
改めてこれから顔を合わせなきゃいけない二人を思い出すと胃が重くなって、階段の手すりを持つ手にも力が入る。
でもこんなところで足踏みしているわけにはいかない。
大変なのは、これからなのだから。
「ありがとう」
扉の向こうはいつもの朝だった。
あちらこちらでらおはようの声が飛び交い、月曜ならではの気だるさをまとっている人も多い。
部署の違う遥香と別れ自分のデスクへと向かい辺りを見まわせば、幸いまだ二人は来ていないようでほっと小さく息が漏れた。
どうやら、思ったよりも緊張する。
「あ、おはようございます」
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