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人の減った昼休み。
周りに誰もいないことを確認して滑り込んだ部屋。金属で出来たその無機質なドアの向こうは少しだけひんやりとしていて肌寒い。
物置として使われているこの狭い部屋を区切るように並んだ背の高い棚の奥に、その人はいた。
「……亜希」
私の、元婚約者が。
あの時、書類に挟んであった小さなメモにあったのは聡の字で。
見た瞬間は思わず顔が歪んでしまったけれど、休みの間彼からの連絡を全てブロックしていた私は渋々言われた通りにここに来ることにした。
なのに、落ち着かない感情に胸がざわつく。
私はまだ、この人に何をどう言えばいいのかわからなかった。
「……なに」
「……ごめん。まだ色々、ちゃんと話せてなかったから」
確かにその通りなのだけれど。
口を開けば感情が溢れそうになる私はきゅっと唇を噛み締める。
「……もう、いいよ」
「そういう訳にもいかないだろ。親とか課長にだって……」
「うちの親は私が言う。課長は……あとで行くから聡は聡で別で行ってや」
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