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慶びごとならならいざ知らず、婚約解消に加えて別の相手との婚約報告だ、私たちが揃って報告することでもないだろう。
確かに一度話すべきことだとは思っていた。
思っていたけど、話す意思がある――それだけが確認できたらただそれでよかった。
「ブロック解除しとくしなんかあったらそれで教えて。じゃあ」
「ちょっ、待てよ明希!」
誰が待つか。
頭でそう呟いて、私は逃げるようにしてその部屋を出た。
扉の閉まる重たい音が背中に響く。
胸が、ひりひりと痺れた。
噛み締めた唇からはふと鉄くさい血の味がする。
幸い表には誰もいない廊下が続いていて、私は早足でそこを突っ切っていく。
あれからまだ二日。
あんなところで二人、これからのことを平気な顔で話せるわけがなかった。
「ーーはぁっ」
エレベーターに乗り込んでその分厚い扉が目の前を閉ざすと、大きく息が漏れる。
緊張からかなんなのか、いまだに指先は僅かに震えていて、それが逆に私を少しだけ冷静にさせてくれた。
……まだまだやな……。
そんな自己嫌悪にため息をついた時、突然ジャケットのポケットが震えた。
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