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『今日夜ご飯』
『却下』
『ちょっと、まだなんも言うてへんやないの』
『どうせ一緒にどうとかなんとか言うんやろ、却下や却下。向こうさんの都合かてあるんやし、なにより俺らはそういうんとちゃうねん』
慣れた様子で母親をあしらう家村さんの向こうでは、いいじゃないのーと反論する声が聞こえる。
きっぱりと否定してくれた彼にはなんとなくほっとするものの、同時にどこかもやもやと心が落ち着かなくなってしまった。
そういうん――
その言葉にふとついさっきの出来事を思い出してしまったからだ。
……聡。
そういう関係だった彼は、もう関係のない人になってしまった。
このあと上司に報告しなければならないことを考えるとますます胃が痛くなる。
そして、それは近いうちに両親にも言わなくちゃいけない。
私の結婚を心から喜んでくれていた二人。
例え詳細を伏せたとしても、心配をかけてしまうことがわかっているから胸が苦しい。
もしかしたら画面の向こうにいる家村さんのお母さんだって本当に心配だったのは彼のことだったのかもしれない。
きっとそう。
だって親なんだから。
そんな風に思うと何故か急に他人ごととは思えなくなって。
「あの」
思わず言葉がこぼれ落ちた。
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