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ん?、と聞き返されると少しだけ言葉に詰まる。
それでもごく、と唾を飲んで自らを奮い立たせ、小さく口を開いた。
「いいですよ」
『は?』
「や、だから……夜。あの日のことも私からちゃんと説明しますから」
正直、他意がないとは言いきれない。
一人で家にいるのが怖くて、誰かと一緒にいたいというのも勿論あったりする。
そんな私は狡いのかもしれない。
でも、そうすれば変な誤解も想像も解けるはず。悪いようにはならないはずだ。
朝の遥香の言葉もあり、そんな風に自分を正当化した私は画面の向こうに耳を澄ませた。
なになにと私の言葉を気にするお母さんをあしらい、家村さんは内緒話をするようにほんの少し声を抑えて言葉を口にする。
『別にそこは気にせんでええし、無理もせんでええねんで?』
「やっ、別に無理とかじゃないですよ。またって言ってたし特に予定もないんでっ」
『……まぁそう言うんやったら……』
元々色々迷惑をかけたのは私なのだから当然といえば当然だ。
あまり気を使わせても悪いと思い、なかば無理やり約束を取り付けると、昼の時間がなくなることに気づいた私は残る詳しい話は文字でやり取りすることにして。
真っ暗になった画面を見つめてほっと息を吐いた。
「……はあ」
なんとなく落ち着かない気持ちもあるけれど、それでも電話を受ける前よりは幾分痛みは薄らいでいる。
確かに、聡とのことばかりを考えないですむのは気持ち的にも楽だった。
さっさとご飯食べてさっさと仕事に戻ろ。
んで……さっさと課長に言おう。
そうすれば少しはすっきりするかもしれない。
そうすれば夜も少しは楽しめるかもしれない。
そんな狡い考えをため息とともに吐き出した私は手にしたスマホをポケットに押し込み、ひんやりとしたドアノブへと手をかけた。
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