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顔を合わせるや否や、連れ込まれるようにして入ったそのお店は下町情緒にあふれていて。変に気取ったところで会うよりもずっと気が楽になった。
実際に会ってみても彼のお母さんはとても気さくで、促されるままとりあえずドリンクを頼み、先日の件を話して今に至る。
酔っ払って動けなくなった見ず知らずの私を助けてくれた人。
そんな感じで説明すると、少しだけ目を大きくしながらも『ほんまやったんや』とどこか嬉しそうな顔を見せたその人は、やっぱり母親なんだろうなと思った。
「いえ、元はと言えば私が悪いので……」
「ううん、電話切ったままなんの説明もないこの子が悪いんよ」
確かにそれは心配する。
ちらりと家村さんを盗み見ると、その人はバツが悪そうに視線を逸らした。
わざとなのか忘れていたのか。どうやらそこのところは自分でもまずかったと思っているらしい。
そんな私に彼のお母さんは柔和に入った目元のシワを深くする。
「まぁでもあなたも気ぃつけなあかんよ。世の中変なん多いから」
こんなんでも役に立ってよかったわ、なんて笑うその人に苦笑いしつつも胸の奥がじわりと温かくなる。
向けられる優しさがこんなにも嬉しいのは私が弱っているからなのか。
そんな風に、目の前でこぜり合いを繰り返す二人を穏やかな気持ちで眺めているうちにも、頼んでいたサワーがやってきて。
「まぁとりあえず」
というお母さんの一声で、乾杯の音頭がとられた。
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