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「は?」
「だって私もパート休めへんし。どて焼きは自分ら二人で食べといてくれたらいいから。ほな明希ちゃんまたね」
「ちょっ……!」
それはどうやら彼も何も聞いていなかったらしい。
慌てて隣を向いた彼の手にぺしっとお札を握らせると、私を向いたその人はぴろぴろと指先だけで手を振って颯爽と店を出ていってしまった。
ピシャリと閉まった扉を見つめて、思わず口角をあげたまま固まる。
「……あのやろ」
顔をひきつらせた家村さんが小さく呟く。
どうやらこれは彼女の策略らしい。
そんな二人に私も苦笑いが浮かんだけれど、だからといって私も、とここで帰るには少々忍びない。
どうせ帰る場所はお互いすぐ近く。
突然二人きりというのは少し心許なくも思うけれど、元々いつかは二人で会うはずだったのだ。
それに。
この明るい空気をもう少しだけ。
そんな狡さを胸に、私はへらりと微笑んだ。
「……ま、新幹線間に合わなかったら大変やし……さ?」
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