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「えーみんなにとっては最後の夏休みになるが、受験もあることは忘れずに。でも後悔のないよう休みを過ごして欲しいと思います」
蝉の鳴き声が開けられた窓の外から聞こえてくる。外に目を向ければグランドの砂が太陽に照らされ、白く眩しくて学は思わず目を細めた。
生ぬるい風が吹くたびに、むわっと不愉快な空気を運び、下敷きで扇ぐ音がパタパタと教室内に響いた。
中学最後の夏休み。教師の挨拶も終わった頃、ちょうどチャイムが鳴り皆楽しそうに帰り支度を始めた。明日から始まる夏休みのことで頭がいっぱいなのだろう。
出された課題や配られたプリントをカバンにしまうと、学の机とロッカーの中は空っぽになった。本当に何もない、空にするために数日前から物を持ち帰っていたからだ。
そのまま教室を出ると、真っ直ぐ下駄箱に向かい上履きを脱ぐとそれもカバンの中へしまった。靴に足を入れると、明日からは来ない校舎をなんとなく眺めた。
登校日は二週間後、それまで部活のある生徒以外はここに来ることはないんだ。古い校舎の壁は黄ばみ、所々にヒビが入っていた。老朽化のための建て直しの話が出ていると噂は流れるも、それが行われる様子は今のところない。
「暑い……」
真っ直ぐに照らす太陽の光に、手を額に当て影を作る。毎年猛暑だとニュースでやっているけれど、今年はとくに暑いように感じた。どこかの市が何度を越えたとか、そんな話題を耳にしたっけ。
暑いものは暑いけれど、正直どうでも良かった。すべてが他人事のように思えて、暑かろうが寒かろうが自分には関係ない。夏休みの課題が今年は去年より多いらしいことも、どうでも良いと思った。
家までの帰り道、蝉の鳴き声やランドセルを揺らしながら走る小学生のはしゃぐ高い声が、やけに耳に響いて学は顔を歪める。
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