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「夏休み……」
重たい足を引きずるように歩いていると、どこからか子供のはしゃぐ楽しそうな声が聞こえてきた。
「わーすごい。 ありがとう」
「僕にもやって」
うるさいなと、学は思った。とくに気になるのは、声が聞こえる先に自分の家があるということ。
道を曲がると背は百八十センチはあるだろう、黒い短髪の男が小学生を持ち上げて、木についている蝉を採らせているようだった。
白いシャツに黒のズボン、斜めにカバンをかけた男は、小学生の男の子を地面におろすと言った。
「大切にしろよ?蝉は一週間しか生きられないんだからな。だから観察したらちゃんと木に戻してやるんだぞ」
「えー、一週間しか生きられないの? 何で?」
「何でだろうな? それは俺にも分からない。でも一週間しか生きられないのに、自由に過ごせないなんて可哀想だろ?」
それを聞いた小学生の男の子は、捕まえた蝉を見つめて言った。
「お兄ちゃん。僕、蝉いらない」
そう言うと、空に向かって蝉を放した。
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