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「失礼なやっちゃな、お前。ちょっと我慢せえ。」
カッパは気分を害したようなので、僕は我慢して、カッパにされるがままになった。
恐怖で動けなかったのだ。
ところが、カッパに触ってもらうと、不思議と自分を支配していた不安がすーっと消えた。
カッパは手を離すとこう言った。
「な?今なら泳げる気がせえへんか?」
僕は、上半身裸になって、服を川原に置くと、半ズボンのまま川に入って行った。
こんなところをおじいちゃんに見られたら、めちゃくちゃ怒られそうだ。
でも僕は試してみなくてはならない気にさせられたのだ。
思い切って顔を水につけてみた。
あれ?苦しくない。怖くもないし。
僕はそのまま、足をばたつかせて泳いでみた。
自分でも信じられない距離泳げたのだ。
ざっと25mくらいかな。
嘘だろう?この僕が?僕は満面の笑みをたたえた。
「よかったな。」
カッパがにっと笑った。
「ありがとう!」
僕はカッパに感謝の言葉を述べた。もうカッパを最初見た時の恐怖はどこにもなかった。
僕はメキメキと泳げるようになった。その日からずっとカッパに泳ぎを教えてもらったからだ。
カッパと僕は友達になったのだ。カッパはいろんな古いことを知っている。
物知りだ。カッパといる時間は楽しかった。
僕はもっともっと泳ぎがうまくなりたくて、今日もカッパに会いに来たのだ。
「おーい。」
いつものように呼ぶとカッパは中州からガサリと草を分けてこちらに泳いできた。
カッパは水からあがり、ぺたぺたと僕に近づいてきた。
「さあて、そろそろな。水泳指導もしまいにしよか。」
カッパの思わぬ言葉に僕は驚いた。
「え?なんで?もっと僕泳げるようになりたいよ。」
すると、カッパは首を横に振った。
「もう俺がお前に教えることはあらへん。お前は立派にもう泳げるからなんも心配いらへん。」
僕は寂しくなった。
「会えなくなるの?」
僕はカッパに言った。
「いや、そんなことはあらへんよ?」
カッパは僕のことを嫌いになったわけじゃないんだ。よかった。
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