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あの日よりももっと幼い姫良が待ち続けた母親との思い出は、記憶にさえ定かにはないのだ。
一成が語った姫良の姿を思うと胸が痞える。
おれが云えることは、助けになれることはなんだろう。
時にそんな無力さが紘斗のまえに立ちはだかる。
ただ――。
『おかえりなさい』
『帰ってきたことは――』
ここに来て何度も聞く“帰る”という言葉。
少なくとも、“こんにちは”ではなく“おかえりなさい”で始まることに期待を抱く。
もしかしたら、“ただいま”と返す姫良も気づいて理解もしている。
「姫良」
呼びかけると応えて姫良がこっちを向いた。
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