日本 東京・原宿 1970年

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その間、真一さんは何をするでもなく、ぼーっと待っていた。 狼歩さんの姿が見えないと思ったら、歩道のガードレールにもたれかかって、道行く人を観察していた。 「あっ、これこれ。この香水の瓶、いいわね」 この時代の女の子って、「かわいい」って言葉を使わないのね。 「ねえ、真一さん」 優香さんは真一さんを呼んだ。 「ねえ、どっちがいいと思う?」 もう。母はずっとそう。自分では決まっているくせに、人に意見を聞きたがる。 「うーん。紫」 「ええっ?地味じゃない?」 「じゃあ赤い方」 「赤い方かあ。じゃあそうしようかな。あ、水色もいいと思わない?」 「うん。じゃあ水色」 お父さんったら。どうでもいいのかしら。
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