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繻子でできたちょっと踵の低い、美しいけれど履きよさそうな靴。飾りの花は薔薇かしら。ちょっと色の濃いローズ色。
雨の降る日に履いたら大変。なんて思って、私はおかしくなった。
だってだって、夢の中なんですもの。そんなアクシデントは起こらないわよね。
「はい。履けましたね。では行きましょうか」
狼歩さんは立ち上がり、私に向かってにっこりと笑いかけた。
こんな風に言われたのも初めて。
パパはいつだって自分でさっさと玄関を出て「早くしろババア」って言うのよ。
そう言われるたび、私はうつむいていたのよ。
「あ、パパは?」
「ご主人ですか?ご主人もデートに連れて行きます?」
狼歩さんはまた意地悪なことを言った。
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