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二階で何かが落ちるような音がした。続いて声が聞こえた。
「ママ~?」
娘だわ。娘が私を探している。
私は我に返った。ダメ。娘を置いていくことはできない。私は娘と離れることはできない。
ちっ。と狼歩さんが舌打ちをしたような気がした。
はっとして私は狼歩さんの顔を見たけれど、その顔は端正なままだった。
「ごめんなさい。やっぱり行けない」
狼歩さんは大きく息を吐いた。
私は娘のお陰でかろうじて踏みとどまったのかな。
でもでも。それがよかったのかどうかはわからない。
「わかりました。ではね。もう一つふうかさんに夢を見せてあげましょう」
「いいえ」
「心配しないで」
否も応もなく、狼歩さんは手を伸ばすと私の額に指を触れた。
私は反射的に目を閉じる。
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