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私は靴箱の上にあった、靴とお揃いの繻子でできたピンクのハンドバッグを手に取ると、ドアからするりと抜け出た。
そう、抜け出たの。私は、寂しい家のドアから外へと、抜け出ることができたのよ。
身体は軽やかに、そして私が動くたびに星屑のような欠片がキラキラと舞うようだわ。
「さあ、お手をどうぞ」
私に向かって差し出された狼歩さんの手、今度は躊躇うことなしに掴むことができた。そう、これは夢の中の話、そしてここにいる狼歩さんが私の恋人なんですもの。
家の前にはため息が出るような素敵な車が、ひっそりと停まっていた。
夜の闇のような、でも黒ではない濃紺の車。ミッドナイトブルーという色かしら。ピカピカに磨きあげられている。
今日のデートのために、狼歩さんが洗っておいてくれたのかしら。
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