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狼歩さんは腰を屈めると、素早く私の唇にキスをした。
それは、触れるか触れないかくらいの風のようなキスだった。
あ。ちょっと冷たい狼歩さんの唇。私は突然のことで、目を開けたままだった。
そして、瞬きをした次の瞬間、私の目の前には誰もいなかった。
パパじゃない人とキスをした!
でも不思議と私には罪悪感はなかった。
だってあの人は人間じゃないんですもの。天使なんですもの。
私、微笑みを浮かべている。少し、少しだけ幸せだった。
「ママ~? お腹すいたあ」
娘があくびをしながら階段を下りて来た。髪がくしゃくしゃ。すごい寝癖だわ。
「ちょっと待ってね。パンケーキを焼くわ」
私は娘に笑顔を向けた。
ええと。なんだったっけ。メフィ。メンフィス? メンフィストだったかしら。とにかく眠り薬だったわね。
私は小さな緑色の瓶を、カトラリーの引き出しにしまった。
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