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狼歩さんは私のために助手席のドアを開けてくれた。
どうしましょう。私、人にドアを開けてもらって車に乗ったことなんてない。
ドアを閉めようとしている狼歩さんの前で、上手に座ることができるかしら。
大丈夫だわ。ちょっとスカートのすそが引っ掛かったような気がしたけれど、ちゃんと座ることができたみたい。
私は助手席から自分の家を見た。
玄関ポーチは淡い光が灯っている。
あの家は一見温かそうな家族が住んでいるように見えるけれど、私が寂しい思いをしてきた場所なんだわ。
玄関灯がぼやけて見えるのは何故かしら。
「ふうかさん」
「はい」
「どこか行きたいところはありますか?」
狼歩さんは自らの安全ベルトを装着しながら、私に尋ねてくれた。
パパは私に、こんな風に聞いてくれたことはあったかしら。
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