ベトナム ホイアン

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ダメでもいいわ。郷に入りては郷に従えっていうじゃない。コーヒーは熱湯で淹れるものだしね。 私はスプーンをカップに沈め、ゆっくりとかき混ぜた。 白いミルクが黒いコーヒーに溶けて、立ち上って行く。 そしてそれらは完全に混じり合い、茶褐色のミルクコーヒーになった。 「ちょっと甘すぎるかもしれませんけど」 狼歩さんはグラスの口の当たる部分を神経質そうに拭い、唇を付けた。 男の人の口元を凝視するなんて、私ってお行儀が悪いわ。でも、唇から洩れた白い歯から目を離すことができなかった。 どうしよう。私の歯はどうかしら。真っ白じゃないわね。 「ねえ狼歩さん」 「はい?」 「どうして狼歩さんはそんなに白い歯なの?」 コーヒーを飲みながら聞く話ではないけれど、私は気になり始めたら聞かずにいられないちょっと面倒な性格だから。
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