ベトナム ホイアン

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「ホワイトニングをしているんですよ」 ああ、やっぱり。歯磨き粉くらいでは白くならないのね。 「そうなの」 沈んだ声を出したのが自分でもわかった。だってそんな歯医者さんへ行って高いお金を出す余裕なんてないんですもの。 狼歩さんは何も言わなかった。 それはありがたかった。ここで「やってみたらどうですか」とか「それほどお金はかかりませんよ」なんて言われたら私は傷つくばかりだもの。 どうしてかしら。いつから私は私に投資しないようになったのかな。美容院だってずっと千円床屋。それも一年に二回くらい。 私は結婚する前の方が幸せだったのかな。 「コーヒー、どうですか?」 グラスを手にずっと考え込んでいる私の眼を、狼歩さんは覗き込むように顔を近づけた。 「ええ。美味しいわ」 「甘いでしょ」 ええ。甘すぎるわ。コーヒーのせいにして、私は小さく鼻をすすった。
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