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夢現
目が覚めたのは昼頃だった。
気怠い身体を起こしてシャワーを浴び、倒れ込むように再びベッドに寝転がった。
携帯をチェックするもアドレスを教えていない一樹から連絡がある筈もなく、清人からの連絡も入ってはいなかった。
その代わりに、昨晩遅く帰ったが為に一日外出禁止を喰らったとのメッセージが奈緒から届いていた。
それに返信をして携帯を放り、アタシは昨夜の事を思い返した、まるで嘘のような展開だったと思う。
互いに同じ事を思っていたとか、相性が良いとか、事故の話も、怪我の事もそうだ、何だか出来過ぎているような気がする。
でも、高々十六の小娘を落とすのにそんな手の込んだ芝居を打つだろうか?いや、分からないぞ、場を盛り上げる為の嘘かも知れない。
そんな悶々とする思いに何度も携帯に手を伸ばすが、結局何もせずに放り投げた。
だってそもそもが清人が仕事で留守の間の世話役という話だ、それに一樹が一夜限りのつもりでいたのなら殊更こちらからは連絡できない。
だから携帯が鳴る度に期待しては落胆の溜め息を吐いた。
夕方になり日中の仕事を終えた母親が帰宅した。
けれどろくに会話の無いまま、また直ぐに夜の仕事へと出掛けて行った、まぁこんなものだ。
気分転換にシャワーを浴び、濡れ髪をタオルドライしながらボーッとテレビを眺めていると今日何度目かの携帯が鳴った。
どうせ違うんでしょと思いつつ手に取り、思わず椅子から立ち上がった、清人からだ!
逸る気持ちを抑えて一呼吸してからいつもの調子で応答した、清人曰くそんな嫌そうにするなよというテンションでだ。
『栞?…俺、一樹だけど』
!!思わず携帯を落としそうになった。
『今から出られる?』
緩んだ顔でウンと答えると迎えに来てくれると言うのでアタシはそれを断った、何故ならあの公園へ行くよりも近い距離だし、何より色々準備がしたいからだ。
『夕飯は食べた?何か買ってくもんある?』
『あー……実はもう家の前なんだよね、昨日停めた所。準備できたら降りて来て』
通話状態のまま玄関を出て表通りを見下ろすと、一樹がこちらを見上げ小さく手を振った。
もう…顔が緩んでしようがない、直ぐに行くと通話を切り、Tシャツにショートパンツという部屋着のままで家を出た。
車に乗り込むと、まだ十九時頃で行き交う人も多いというのに一樹は人目も憚らずキスをしてきた。
「会いたかった」
「アタシも」
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