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Tシャツの中に滑り込んできた清人の手に、身体がビクッと強張った。
けれど案の定、悲鳴は声にはならなかった、だから必死に身を捩り手足をバタつかせて抵抗した。
でもやはり力では敵わない、マウントを取られている上に手も押さえ付けられ身動きすら取れなくなった。
「ほんと強情だな、カズキ呼ばねーの?まぁシャワー浴びてっと外の音なんか聴こえねーけどな」
「もぉ…いいから退けってば!!」
絞り出した声と抵抗も虚しく、清人が覆い被さり首筋に生暖かい吐息と唇が触れた。
その時だった、身体を押さえ付けていた重みが突如無くなったかと思うと、ドンッと一発大きな音がした。
身体を起こすと、腰にタオルを巻いただけの一樹が清人の胸倉を掴み壁に押さえ付けていた。
「清人お前…っ、マジで殺すぞ!」
その怒りに震える声にアタシは息を呑んだ、そう多分清人もだ、冗談だと引き攣った笑みを浮かべている。
そんな清人を廊下に放り投げ、そこから動くなと恫喝し閉め出すと、一樹はアタシを強く抱き締めた。
「ごめん…怖い思いさせて本当にごめん」
安堵からか涙が溢れて止まらなかった、人前で泣くのなんて小学生の時以来だ。
そんなアタシを一樹は落ち着くまでずっと抱き締めていてくれた。
そして送ってもらった車の中、一樹はこの一件を警察沙汰にしてもいいと言ったが、アタシは頭を振った。
確かに怖い思いはしたけれど、清人は本気じゃなく脅すだけのつもりだったと言っているし、実際に未遂だった。
だから、清人とはちゃんと話をつけるからと言う一樹に任せて車を降りた。
でも部屋に戻っても不安は募るばかり。
そうもしもこの一件で幼馴染という二人の関係が壊れてしまったら、アタシなんかと関わり合いにならなければ良かったと後悔するかも知れない。
そうしたらもう一樹には会えないんじゃないか?というかそもそも当事者のアタシが話し合いに参加しないのはどうなんだ?今からでも行った方がいいんじゃないのか?
そんな事をグルグル考えて結局一睡もせずに朝を迎えた。
そして夕方になってから漸く連絡があった、奈緒も誘ってご飯を食べに行こうと。
先にアタシの所へ迎えに来た二人は、顔を会わせるなり深々と頭を下げ謝罪した。
二人の様子を見る限り関係は壊れてはいないようだ。
正直、釈然としない思いはあるが、これでいいんだと自身に言い聞かせた。
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