第2章

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俺の家庭は、物心のついた頃から破綻していた。 よくある話だが、家庭を顧みない父親、対面を取り繕うので精一杯の母親。 初めのうち、母親は、甲斐甲斐しく父親の世話をし、家族の絆を取り戻そうと色々と努力していたが、その努力も虚しく、家庭の空気はますます悪くなるばかりだった。 あの頃は、母親が自分たちの不仲を小学生の俺に悟られないように必死だったのを子供ながらに感じ取り、俺は何も知らない純真な子供を演じていた。 何も気づかないふりをしていた。 そうすれば面倒なことは何も起きない。 こうして上手く笑顔の仮面を被りやり過ごせば、形だけでも家族ごっこができる。 しかし、さすがにそうしたやり取りが数年も続くと、父親の心の中に自分がいないことを悟ったのか、これ以上はごまかせないと観念したのか、母親は良き妻、母を演じることを止めた。 父親の帰りが遅い日は、母親も遅く、朝帰りは当たり前。 二人して、何日も家を空けることは少なくなかった。 そうして気づいた時には、家族で住んでいるというよりも、他人同士がまるでルームシェアして共同生活を送っているような空間になっていた。 夜一人で過ごすことも多く、一人で「おやすみ」と呟き眠りにつく事が日課になっていた。
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