第1章

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そのあと3時間町の周りを歩いた。 7週目の途中で、日が沈んだので家に帰った。 家には晩御飯が用意されていた。 親父も母も何も言わなかった。 晩御飯のあと、両親と話をした。 「弁爺から話は聞いたか?」 「聞いた。金のないやつはみかんになるって」 「ならいい」 そう言って、深い溜息をつくと、静かな声で言った。 「とっちゃもかかも、ずっと必死だった。  朝も夜も。それは全部、正に立派になって欲しかったからだ。  一人前に育てるために。おめがみかんになるのは、  とっちゃは悲しい。かかも、言わねばそうだべ」 わかるか、と念をおされた。わかる。と答えた。 「ならばいいんだ。  絶縁だ。  おめは明日からもう家の子じゃない。勝手にしろ」 涙が出た。 その思いの全てをわかるなんて、決して思わない。 それでも、親父の思いは伝わった。 「すみません」 そう言い続けるしかなかった。 父も、母も静かに下がった。 一人泣きながら「すみません」と言い続けた。 翌日の早朝。家を出た。 母が水筒に水を入れてくれていた。そこには ―頑張りなさい。父も母も応援しています― と書いた紙があった。 上京し、それから遮二無二に働いた。 月に一度は、母から手紙と水が届いた。 その手紙に返事を書けたことは一度もなかった。 代わりに、村の方向に毎日頭を下げた。 それから3年。 東京の暮らしにもなれ、余裕もできた。 報告したいことがあった。 でも、それができなくて、 歯がゆく思いながら、 帰った時の第一声を考えて過ごした。
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