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とある通勤快速電車の一画。
朝の一場面。
混み合う車内でひとり、少年は物思いに耽る。
以下、悩める少年の心中。
「僕は今、とっても幸せな気分だ。」
「もしかしたらこの感情は一過性のものに過ぎないかもしれない。」
「ありがちな思春期の、好奇心なのかもしれない。」
「もし一歩でも前に踏み出せば、今後全く違う人生を歩む事になるかもしれない。」
「もしそうなってしまったら、どうなってしまうのか。」
「楽しみであると同時に反面、とても怖い。」
「母は悲しむだろうか。」
「姉はどう思うだろうか。」
「父はきっと、怒るだろうな。」
「学校の先生や同級生たちにこの事が知れたらどうなるだろう。」
「みなは騒ぎ立てるだろうか。」
『信じられない。何故アイツはそんな事を?』
『始めからどうも変わったヤツだと思っていたんだ。近づかなくて正解さ。』
「などと言われるか。」
「いや待てよ。」
「そもそも彼らが、そんなに僕に興味をもってくれているだろうか。」
「先生や同級生たち、そして悲しい事に家族がどれほどのものなのか。」
「ひいてはこの世界が、一体どれほど僕に興味を持っていてくれているんだろう。」
「僕がどんな生き方を選んだとて、世界は無関心に首を振る。」
「現に今だって、僕はこうして電車の中で毎朝本を読んでいるのだけれど。」
「正確には本を読んでいるのではなく、本の形をした白紙のメモ帳を思慮深そうに捲っているだけなのだ。」
「それでも誰一人としてそれに気付く人はいない。」
「かれこれ一年間も。」
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