第1章

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とある通勤快速電車の一画。 朝の一場面。 混み合う車内でひとり、少年は物思いに耽る。 以下、悩める少年の心中。 「僕は今、とっても幸せな気分だ。」 「もしかしたらこの感情は一過性のものに過ぎないかもしれない。」 「ありがちな思春期の、好奇心なのかもしれない。」 「もし一歩でも前に踏み出せば、今後全く違う人生を歩む事になるかもしれない。」 「もしそうなってしまったら、どうなってしまうのか。」 「楽しみであると同時に反面、とても怖い。」 「母は悲しむだろうか。」 「姉はどう思うだろうか。」 「父はきっと、怒るだろうな。」 「学校の先生や同級生たちにこの事が知れたらどうなるだろう。」 「みなは騒ぎ立てるだろうか。」 『信じられない。何故アイツはそんな事を?』 『始めからどうも変わったヤツだと思っていたんだ。近づかなくて正解さ。』 「などと言われるか。」 「いや待てよ。」 「そもそも彼らが、そんなに僕に興味をもってくれているだろうか。」 「先生や同級生たち、そして悲しい事に家族がどれほどのものなのか。」 「ひいてはこの世界が、一体どれほど僕に興味を持っていてくれているんだろう。」 「僕がどんな生き方を選んだとて、世界は無関心に首を振る。」 「現に今だって、僕はこうして電車の中で毎朝本を読んでいるのだけれど。」 「正確には本を読んでいるのではなく、本の形をした白紙のメモ帳を思慮深そうに捲っているだけなのだ。」 「それでも誰一人としてそれに気付く人はいない。」 「かれこれ一年間も。」
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