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「僕は世界から認識されていない。」
「だから僕は、僕にだけ僕を認識できる方法を考えた。」
「僕は誰かを愛する事にした。」
「僕は誰かを一方的に愛する事によって、僕がこの世界に存在する事を認識する。」
『人を愛するという事はつまり、それだけでも人が存在する理由に事足りる。』
「と、何かの本に書いてあった。」
「僕はこの言葉に非常に感銘を受けた。」
「そうして僕はさっそく実行に移すことにしたのだが。」
「困った事に人の愛し方が解らない。」
「誰かに教えて貰えることでもない。」
「しかしいざ『じゃあこの人でも愛してみようかな』という具合に選べる筈もなく。」
「危うく僕の計画は頓挫して、途方に暮れてしまいそうになった。」
「しかし僕も、こうと決めたら諦めの悪い方なので。」
「もうこうなったら運命に選択を委ねてしまえという事になった。」
「いつもの朝の通勤電車。」
「この毎日変わらない風景を見渡して、その日一番最初に目が合った人を愛そうと決めた。」
「そしてその日、一瞬だったけど確かに目が合った人がいた。」
「最初は『そんなまさか!?』とか『よりによってこんな。』とか『もう一度やり直すべきでは?』などとグズグズとした自問自答をしていた。」
「しかし一度決めたことを覆しては、運命に選択を委ねた意味がない。」
「ここで言い逃れをすれば僕の存在理由は遠ざかっていくだろう。」
「僕は心を決め、運命が選んだ相手を愛することにした。」
「不思議なことに、そう決意した途端に僕の心は運命の選択を受け入れ始めた。」
「毎日電車の中で見るその人の仕草一挙一動が、日を追うごとに愛おしく思えてきたのだ。」
「そしてある日、僕は気付く。」
「僕は本当に、彼を愛してしまったのだ。」
「あの若いくたびれたサラリーマンを。」
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