第1章

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「彼は毎日同じ電車に乗りほぼほぼ同じ席に座っている。」 「眠っている時もあればスマホをいじってる時もあるが大体ぼおっとしている。」 「一年近く、ほぼ毎日観察していたが彼は一定の行動以外をする気配がまるでない。」 「月曜から金曜まで、まるでマニュアルでもあるかのように決まった行動をとっている。」 「月曜は辛そうな表情で微動だにせず。」 「火曜は週刊誌のマンガを読む。」 「水曜はスマホをいじくっている。」 「木曜は首を忙しそうに上下させて眠っている。」 「そして金曜はたいがい『好かれる人になる5つの方法!?』みたいな自己啓発本を読んでいるか、ギラついた眼差しで何処か一点を見つめている。」 「小さい動きはあるが春夏秋冬と通して大体これの繰り返しだった。」 「もしも彼が何かいつもと違う事をすれば、それこそ晴天の霹靂だ。」 「そして僕は、その晴天の霹靂に賭けてみる事にした。」 「彼がこれからの一年間で、もしも何かいつもと違う行動をとったら僕は彼に思いの丈をぶつける。」 「その時その場で。」 「しかし逆に、もし彼がこれまでの一年とほとんど変わらない日常で来春を迎えたら。」 「その時はきっぱりと、この気持ちを永遠に封印するつもりだ。」 「それからというもの、前にも増してよくよく彼を観察している。」 「いつかその日はやってくるのだろうか。」 「月曜の彼は今日も辛そうな表情している。」 「僕も変わらずに、本を読むフリをしつつ彼を目で追っている。」 「少しの変化も見逃さない様に。」 「僕は今とっても幸せな気分だ。」 「唯一、気になる事と言えば。」 「僕と彼のちょうど真ん中くらいにいつも一人の女の人がいる。」 「その人のせいで彼がよく見えない時がある。」 「申し訳ないが非常に邪魔だ。」 「あの人が何処かに少しでもズレてくれればと思うのだが。」 「まあ贅沢は言うまい。」 「嗚呼。」 「何度でも言おう。」 「僕は今、とっても幸せな気分だ。」 了
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