―そこに棲まうモノ―

6/37
前へ
/37ページ
次へ
「学年も同じだし、二クラスしか無いから、もしかしたら同じクラスになるかもね。明日は一緒に学校に行くといいよ。朝迎えに寄らせるから」 石崎兄弟は、このアパートの上の階の405号室に、母親と三人で住んでいるのだと言う。 「あ、はい。方向音痴なんで助かります」 「美鈴ちゃん、方向音痴なんだ?」 「はい、かなり。地図通りに目的地に行けた試しがないんです」 思わず笑顔がヒクヒクと引きつる。 どうも私は『帰巣本能』とか『方向感覚』というものを、母のお腹の中に全部置いてきてしまったらしく、地図通りに曲がっているはずなのに、気がつくと同じ所をぐるぐる回っていたりとか日常茶飯事なのだ。 だから、新しい学校に迷わず辿り着けるはずがないと、胸を張って言えてしまう。 「それは、筋金入りだね」 「本当、自分でもそう思います」  お父さんのケガで始まった引っ越し第一日目だったけど、そんなに悪い日でもなかったかな。 和やかな空気に包まれながら、心の中でそう思った時だった。 パシン! 天井で大きな音がした。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加