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「えええええーっ!」
キャーとか、イヤーンとか、ウソーとか、女らしい悲鳴は、本当に心に余裕のあるときにしか出てこないのだと、美穂は初めて知ることになった。
この緊急事態に美穂の口から飛び出したのは、色気も素っ気もないただの野太い声だ。
そんな美穂の声に男も驚いたのか、
「大丈夫。すぐに復旧するよ」
真っ暗で見えないけれど、こちらを向いて言ってくれる気配がする。
声もイケメンなことに、美穂はちょっとときめいてしまう。
すると男の言うとおり、まもなくエレベーター内の電気がついた。
「ね」
向けてくれる男の笑顔は頼もしいけれど、かなり眩しすぎます。
腰が抜けそうです。
停電より、男の顔の方がよっぽど凶悪だと美穂は思う。
まともに目を合わせたら、きっと立っていられない。
『……貧血になりそう』
そしてこれが肝心、美穂は風呂に行くために部屋で化粧を落としてしまっている。
つまり、
『ノーメイクなんです、お願い、あんまりこっち見ないで!』
バスタオルで顔を隠して、必死で男から顔をそらしている。
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