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電気はすぐに復旧したものの、しかしエレベーターが動く様子は一向にない。
春一は内心、
『困ったな』
と思いながらも、女性に無用な不安を抱かせちゃいけないと、顔には出さないように細心の注意を払っている。
エレベーターの非常ボタンはさっき押した。
管理会社からの応答もすぐに返ってきて、
「申し訳ありません。ただいま雪のために停電いたしました。復旧に少しだけお時間をいただきますが、安全確認が済みしだい、すぐに動かします」
と言われている。
まもなく救助が来るはずだから、あまり心配することもない。
けれどたまたま春一とエレベーターに乗り合わせた女性が、さっきからひどく怯えた様子なのが気にかかる。
震えているし、顔が真っ赤だ。
ひとりでは立っていられないのか、壁に背中をつけて寄りかかっている。
これが鈴音なら腕に抱いて支えてやれるのだが、相手は初対面の女性だから、そうするわけにもいかない。
頼れる者もなく震えている女性が、なんだか可哀想になってきて、
「きっとすぐに動くから、大丈夫」
安心させてやろうと、ゆったりと笑いかけてみる。
とたん、女性はヘナヘナと床に座り込んでしまった。
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